カメムシとクサギ:臭いの常識

 「匂い」ではなく、「臭い」と書かれるのがカメムシクサギの臭い。カメムシの種類によっても異なるが、 悪臭の本体は不飽和のアルデヒド類で、最も臭気の強い種の一つがクサギカメムシ(臭木椿象)。カメムシクサギカメムシ属の昆虫で、日本中にいる在来種。クサギ(臭木)につくカメムシが名前の由来。
 密閉した容器にカメムシとアリを入れ、分泌物を放出させるとアリは死に、ときにはカメムシ自身まで死ぬ。だが、天敵の鳥に対してはこの伝家の宝刀も効果がない。また、分泌物には仲間に危険を知らせる警報フェロモン、そして性フェロモンとして使われている。だが、既述のキバラヘリカメムシはマユミやニシキギを食性としていて、このカメムシの匂いは、青りんごや若草のような清々しい匂い。

 さて、クサギ(臭木)も既に取り上げたが、日当たりのよい原野によく見られるシソ科の落葉小高木で、葉に触るとカメムシの様な香りがするので「臭い木」という名前がついた。土砂崩れや造成などで新しく開けた場所に、他の種に先がけて発芽、成長する先駆種(パイオニア種)。10月中旬は白い花、空色の果実、赤色のがくが目立つ(画像)。

 葉には特異な臭いがあるが、茶の他に、ゆでれば食べることができ、若葉は山菜の一つ。果実は草木染に使うと鮮やかな空色に染めることができ、赤いがくからは鉄媒染で渋い灰色の染め上がりを得ることができる。

 カメムシクサギもその臭いで嫌われ、それが常識になってしまっている。だが、その常識は偏見に近い一面的なもので、より多面的、科学的に眺めれば、臭いだけでなく、青りんごのような清々しい匂いもあり、見事な色の草木染の材料になる山菜でもある。「クサギカメムシ」は特例に過ぎないと考えてもいいのだろう。

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キバラヘリカメムシの幼虫

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キバラヘリカメムシの成虫

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クサギの花

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クサギのがくと実

 

ツワブキのつぼみ

 秋に実をつける植物が多い中で、画像はツワブキの実ではなく、ツワブキのつぼみ。関東では12月から1月頃に開花するが、10月頃にはつぼみをつける。ツワブキ(石蕗、艶蕗)はキク科ツワブキ属の常緑の多年草で、初冬に黄色い花を咲かせる。子供の頃はフキがあちこちに自生していたが、今ではその代わりがツワブキ。観賞用に庭や公園によく植えられるためか、湾岸地域でもよく見ることができる。

 ツワブキは同じキク科のフキに似ている。フキは秋になると葉が落ちるが、ツワブキは常に緑の葉をつけている別属の植物。和名のツワブキは葉がフキに似ていることから、「艶のある葉を持ったフキ」、あるいは「厚い葉を持ったフキ」から転じたと言われている。

 冬から春の若葉を摘み取り、塩ゆでにすると旨いらしいが、フキと違ってまだ食べたことはない。つぼみからきれいな黄色の花が咲くと冬である(画像の花は1月のもの)。

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不完全変態するキバラヘリカメムシ

 3日前にキバラヘリカメムシについて述べました。昆虫には、チョウのように卵、幼虫、サナギ、成虫というように、幼虫時代と成虫時代では形態も行動もまるで変わる完全変態するものがあります。例えば、イモムシとチョウはまったく形態が違い、完全変態ですが、カメムシの仲間は不完全変態で成長します。劇的に変化するサナギ時代がなく、卵から孵化して1齢幼虫になり、5回脱皮を繰り返し、最後に羽化して成虫になるのがカメムシたちです。各齢で大きさ、色具合、模様などなどがどんどん変化しながらも、成虫の形態が翅と外部生殖器を除いて幼虫形態とほぼ同じで、しかも、幼虫と成虫の間に蛹を経ません。

 背面は暗褐色、腹面は黄色、腹部側面に黄白色と黒色の縞模様があるのがカメムシの成虫。図鑑などでは腹面が黄褐色となっていますが、実際には黄色から黄緑色に見えます。脚の色も面白く、腿節の根元から2/3ほどまでが白っぽく、残りの1/3と脛節以降は、先まで茶褐色です。成虫は体長14~18㎜。1齢から5齢までの幼虫は似ています(画像)。

 自然の中の変化は千差万別ですが、脱皮と変態という成長変化は連続的な変化ではありません。スムーズに変わっていく変化ではなく、不連続の変化の具体例とも言えます。私たちの成長変化にもよく見ると脱皮や変態が見つかる筈です。

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モンシロチョウ

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成虫

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成虫と幼虫

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5齢幼虫

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1齢幼虫

 

アオサギとの遭遇

 湾岸地域には運河が多い。東雲運河もその一つで、豊洲市場やオリンピック施設がつくられ、遊歩道が整備されて、格好の散歩コースになっている。秋の散歩を楽しんでいると大きな水鳥が水面を見ながら、魚を探し、時々クチバシを入れて獲っている。それが思ったよりずっと下手で、なかなか捕まらず、クチバシで挟んでも逃げられる始末。意外と不器用なのに驚きながら、ゆっくり近づいても一向に気がつかない風で、これまた不用心。大きな鳥はどこか爬虫類風で不気味だが、滑稽な部分も多い。

 その鳥はアオサギで、ペリカン目サギ科に分類され、ペリカンの仲間。成鳥の羽の色はやや青みがかかった灰色で、そこからアオサギと呼ばれるようになった。翼の上面はうすく黒味のある灰色で、翼の風切羽は青色がかった黒色。日本で繁殖するサギの仲間では最大。羽を広げると150㎝を越える。背が高く、脚も長い。食べ物は魚類や水辺で捕れる両生類、爬虫類、甲殻類、それに小鳥のヒナなども食べる。このところ増えて、日本中で見ることができる。

*大型の鳥は成長になるのに2年以上かかるが、画像のアオサギは頭部の冠羽が目立たず、背面も青色味が少ない若鳥。

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ソヨゴの雌の木の赤い実

 ソヨゴ(戦、冬青)はモチノキ科モチノキ属の常緑樹。モチノキ科の常緑樹で、山の尾根など乾燥地した場所に多い。波状の葉が風に揺れ、「そよぐ(音を立てる)」ことから命名された。別名はフクラシバ。常緑樹の中では公園や庭の植栽に利用されることが多い。

  ソヨゴの開花は6,7月だが、花が小さく、目立たない。雌雄異株で花は雌雄とも白と薄い黄緑色からなる。雄花はたくさん集まって咲くが、雌花は1~2個のみがまばらに咲く。

雌花の後には直径5ミリほどの果実ができ、秋になると赤から黒に熟す(画像)。花や果実には長い柄があるが、果実はサクランボのようにぶら下がる(画像)。

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セイタカアワダチソウの花と昆虫たち

 セイタカアワダチソウ(背高泡立草)はキク科アキノキリンソウ属の多年草。一時ほどの隆盛はなくてもあちこちで黄色の花が目立つようになってきた。北米原産で、外来生物としてススキなどの在来種と競合。11月頃まで開花し、河原や空き地などに群生する。濃黄色の小さな花をつけ、種子だけでなく、地下茎でも増える。

 セイタカアワダチソウは日本の植物で初めてアレロパシーが認められた。沼田真はセイタカアワダチソウの「cis-DME」が地中に残留するアレロパシー物質であることを解明。cis-DMEはイネ、ブタクサ、ススキの生育を地上部・地下部共に抑制するが、セイタカアワダチソウ自身の種子に対する強い発芽障害も起こす。戦後日本でセイタカアワダチソウが急激に広がったのはこのアレロパシーのため。純群落を形成して繁茂し、空き地や放棄畑などで大群落を形成した。さらに、花粉アレルギーの元凶だと濡れ衣を着せられ、嫌われる植物になった。だが、セイタカアワダチソウは虫媒花で、風媒花ではない。

 キンケハラナガツチバチは金毛の名の通り、金色の毛が胸全体と腹部の各節の後縁に生えているツチバチ科のハチ。オスはメスよりも体が小さく、毛の色がやや薄いなどの雌雄の違いがある。画像は触角が短いメス。オスに見られる腹部の黄色い部分がメスは黄色い毛だけになる。キンケハラナガツチバチは個体数が多く、夏の暑い時期から11月頃まで活動している。キンケハラナガツチバチはコガネムシの幼虫に寄生するという、極めてユニークな生態を持っている。『ファーブル昆虫記』にはそのわかりやすい説明がある。メスバチは土の中にいるコガネムシの幼虫に卵を産み、卵は羽化するまでコガネムシの幼虫の中で幼虫を食べて育つ。

 チャバネセセリはセセリチョウ科のチョウで、北海道以外に分布し、やはり11月頃まで活動する。都市、公園、農地などの草地や花壇でもよく見かけ、特に秋に増加する。

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ニシキギ(錦木)とキバラヘリカメムシ

 ニシキギニシキギニシキギ属の落葉低木。花期は5月~6月で、庭園樹、公園樹、盆栽としてあちこちでよく見かける。名前の由来となった錦色の紅葉が既に始まっているが、枝にコルク質の翼があるのが特徴で、蒴果は熟して裂けると、真っ赤な仮種皮に包まれた種子が出てくる(画像)。

 紅葉し始めたニシキギに近づき、目を凝らすと、何とキバラヘリカメムシカメムシ目ヘリカメムシ科)が群がっているではないか。調べてみると、キバラヘリカメムシは、4月から11月にかけ、あちこちに見られ、成虫で越冬し、ニシキギやマユミの仲間に群生するようである。
 画像はキバラヘリカメムシの幼虫と成虫のもの。ニシキギの赤い実もカメムシたちの食料なのだろう。

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キバラヘリカメムシの幼虫

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キバラヘリカメムシの成虫

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