オオルリのオスはなぜ青い、シラネアオイはなぜ青い(1)

 妙高市の鳥はオオルリ、花はシラネアオイで、いずれも青い色が特徴的です。オオルリコルリルリビタキと共に「青い鳥」御三家。また、ウグイスとコマドリと共に日本三鳴鳥の一つ。オオルリは色も鳴き声も優れた鳥で、そのためかどうか知りませんが、妙高市の市鳥におさまっています。一方、妙高市の花とされるのがシラネアオイ(白根葵)。シラネアオイは日本固有種で、山奥、特に日光の白根山に多いことから名づけられました。妙高の山々にも多く見られ、そこから市の花になりました。オオルリのオスは瑠璃色、シラネアオイは淡い紫色ですが、ここでもいずれも青色と呼んでおきましょう。そのオオルリのオスの青色、シラネアオイの花の青色はどのような青色なのでしょうか。また、二つの青色は同じなのでしょうか、それとも異なるのでしょうか。このように尋ねても、同じ青色ですから同じに決まっていると言いたくなる筈です。問いの意図は、同じ仕組みで発色している青色なのかということです。空の青色と花の青色は同じ青と知覚されても、同じ仕組みで青く見えている訳ではありません。空には色素はありませんが、花には色素があります。では、オオルリのオスの青色とシラネアオイの花の青色はどうなのでしょうか。なんだか辛気臭い問いですが、オオルリシラネアオイの青が同じか違うか暫し考えてみてください。
 蛇足ながら、妙高市の木はブナ(山毛欅)です。

 およそ6億年前まで、地球上の生き物には色なるものは存在しないも同じでした。色を見る目を持つ生き物が存在しなかったからです。当時海を漂っていた生き物は、太陽の光を感知できましたが、色を感じるための器官は持っていなかったのです。その後、海の捕食生物が視覚を発達させていきます。その眼で、獲物を見つけ、捕食し始めたのです。被食者もこのままではいられず、進化して適応しなければなりませんでした。さらに、色はカモフラージュだけでなく、自分を健康的、魅力的に見せてパートナーを得るのにも使われました。何度も大量絶滅を繰り返し、生物は数百色に及ぶ色を持つようになったのです。
 動植物が持つ色は、特定の波長の光を強く吸収する色素に起因しています。さらに、メラニンの微粒子は鳥の羽毛の強度を保ったり人間の皮膚を太陽光から守ったりします。葉緑素光合成のために太陽光を吸収する役割を持つ物質ですが、この色素によって植物は緑色に見えます。多くの動物は植物から色素を得て消化したり変化させたりしながら、体の表面に独自の色素を持つことができるようになったのです。例えば、ピンク色のフラミンゴ。赤ちゃんフラミンゴの色はまだ灰色。餌となるエビやカニ、藻類からカンタキサンチンという色素を得ているため、大人だけがピンク色になります。ヨーロッパコマドリやフィンチはイチゴからこの種の色素を得て、鯉も藻を食べることでオレンジ色になります。
 でも、その色が青色となると話は難しくなってきます。フラミンゴにブルーベリーを与えても青くすることはできません。動物には色に限界があることがわかっています。茶色や灰色はよく鳥類に現れ、赤や黄色は食べ物に含まれる色素から作ることができます。しかし、他の色、特に青は食べ物に含まれている色素から作ることが驚くほど難しいのです。大多数の動物は色素から青色を作ることができません。地球上の陸棲の脊椎動物で、青い色素を持つものは一種たりとも知られていません。それどころか、例えば孔雀の羽や青い目など、自然界でもっとも青いものにさえ青い色素は含まれていません。
 では、なぜ青く見えるのでしょうか。彼らは青く見せるために新たなタイプの光学的技術を発達させてきたのです。それは構造を利用したトリックです。大きな翅をもち、翅の表側に金属光沢をもつのがモルフォチョウの特徴。この光沢はほとんどの種類で青色。翅の表面にある櫛形の鱗粉で光の干渉が起き、光沢のある青みが現れます。その鮮やかな青い色「メタリックブルー」は羽根の表面の微細構造によります。多くの緑色のヘビとカエルは実際には緑色なのでなく、黄色の色素と青色の光学的構造を混ぜ合わせて緑色に見せているのです。緑色のヘビが死んだときには、黄色の色素が次第に薄れていくため、死体は青色だけ残り、青くなります。
 では、植物はどうでしょうか。植物にも構造色が見つかりました。Pollia condensata(ツユクサ科の植物名)はアフリカ全土に見られますが、この実は世界でもっとも光り輝くことで有名です。最近、ケンブリッジ大学の研究者たちによって、セルロース繊維の構造体によってメタリックブルーが生み出されていることがわかりました。この青は構造色で、動物の世界では幅広く知られていましたが、植物でも見つかったことで話題になりました。生物の構造色は5億年前に地球上に現われ、その後動物界でも植物界でも、素材こそ違え、同じような多層フォトニック構造で発色する仕組みを共通して進化させてきたのです。「自然の妙」としか言いようがありません。P. condensataでの発色の仕組みは、果実の外果皮の細胞壁セルロース繊維が固く巻いたものからなる層がいくつも形成されていて、それが光を反射します。セルロース繊維の間隔が細胞ごとに微妙に違っているために、異なる波長の光を反射し、見る角度によってメタリックブルーの色調が微妙に変化するとのこと。
 自然は色についていたって不公平です。空と海を除くと、自然には赤、黄、白が溢れていますが、青は極端に少ないのです。自然界において「色素」由来の青は非常に僅かで、それゆえ青を表現する語彙も乏しいのです。フェルメールが使ったラピスラズリは昔から青い顔料として利用されてきましたが、非常に高価でした。1700年代に、ドイツでプルシアンブルーが偶然に発見されます。北斎の富岳三十六景に使われている鮮やかな青は、そのプルシアンブルー。この青は日本では伊藤若冲が最初に使ったとされています。