梅は白梅

 梅は奈良時代に渡来しましたから、当然ながらそれより古い『古事記』、『日本書紀』、『風土記』に「梅」は登場していません。奈良時代に伝来したのは白梅だけで、単に「梅」と呼んでいました。その後、紅梅が入ってきて、両者を区別して、「紅梅(こうばい)」、「白梅(しらうめ、はくばい)」と呼ぶようになりました。「紅梅」の文献上の初出は『続日本後紀』で、そこでは紅梅が遅咲きで、白梅が開花した後、遅れて咲くと述べられています。その伝統が俳句の季語にまで影響し、季語の「紅梅」は白梅より少し遅れて開くとされています。

 一方、和歌では「白梅」、「紅梅」とは詠まれていません。「はくばい」、「こうばい」と音読みしたのでは和歌にそぐわないと思われていて、「紅梅」が日本に入ってきても、歌ではただ「梅」としか詠まれず、その結果、どれが「紅梅」を詠んだ歌なのかよくわかりません。紅梅は『枕草子』で「梅は、濃きも薄きも紅梅」とされています。平安中期、和歌ではなく、散文で「紅梅」への関心が高まっていたようです。

 白梅は白い花を咲かせる梅であるのに対して、紅梅は紅色あるいは濃い桃色の花を咲かせる梅のことだと思いがちですが、紅梅、白梅は花の色による区別ではありません。紅梅は枝の内部が赤っぽく、白梅は白っぽい色をしています。つまり、赤い材が紅梅、白い材が白梅です。ですから、白い花を咲かせる「紅梅」もあることになります。その木が紅梅か白梅かは咲いた花の色ではなく、この木の幹の断面の色による訳で、1本の木に白い花と赤い花の両方が咲くようなこともあります(源平咲き)。

 以上のことは私の知識でしかなく、実際の私の経験からは白い梅の花の木の方が赤い梅の花の木より開花が早く、今実際に湾岸地域で咲いているのは、白い梅の花の木ばかりで、まだ赤い梅の花の木は花が開いていません。

*画像は一重と八重の白梅