ものとその名前(2):「バラの名前」の意味

 「バラ」はバラの名前だが、最初の画像の赤いバラの名前はドルトムント。すると、「バラ」も「ドルトムント」もバラの名前であるだけでなく、系統分類のシステムの中でバラはもっと様々な名前をもっている。

 ところで、『薔薇の名前』はウンベルト・エーコが1980年に発表した小説で、映画化もされた。14世紀初頭北イタリアのカトリック修道院を舞台に起きる怪事件の謎をフランシスコ会修道士バスカヴィルのウィリアムとベネディクト会の見習修道士メルクのアドソが解決していく。タイトルが暗示するのは、薔薇(身体)は枯れ果てても、名前(表現や理論)は世に残るということか、あるいは逆に薔薇は実在で、その名前は記号に過ぎないということか、名前とバラの関係が大いに気になる。

 バラの名前は他の大抵の植物と違って、固有名詞に近い。注目され、関心の高い園芸品種はみなそうである。チューリップもそうだし、サラブレッドとなれば固有名詞をもっている。その極めつけはペットで、名前のないペットなどまずいない。 

 植物名を特定する作業は科学的なのか、それとも哲学的なのか。「科学的」とは名前の特定が科学活動の一つで、その活動は観察や実験、理論構築や説明をすることである。一方、「哲学的」とは注釈活動の一つで、図鑑の中の記載から名前を特定することであり、必要ならその図鑑記載に新たな知見を加えることである。これはギリシャ哲学や中世哲学、さらには近代哲学でも行われてきた哲学の研究手段の一つ。ここにあるのは、対象の観察や実験と、テキストの講読と注釈という違い。

 そんな面倒な話を頭の片隅に残し、まずは冬のバラを楽しもう。最初の画像以外はバラの花そのものを味わい、その後にバラとバラの名前の関係をちょっと考えていただきたい。