イギリス問題

 パンデミックの最中にワクチン接種によってイギリス政府はその戦略を大胆に変えました。でも、感染が急拡大している時に大規模緩和や自由を認めるのは時期尚早と批判する声は小さくありません。制御のない状態で感染爆発のピークがどれぐらい続くのかまだ実際には誰も見たことがありません。というのも、これまでイギリスは感染拡大に対してロックダウン(都市封鎖)を実施してきたからです。

 正直なところ、7月19日以降に何が起きるのかは誰にも分かりません。人々がどう行動するか、その正確な予測は厄介です。今後2週間で感染者が倍になれば、危険水域に突入することになります。そうなれば、政府は何をするか考え、決めなければなりません。

 兎に角、ワクチン2回接種による「免疫の壁」を試すイギリスの実験が始まりました。感染者数の増加率に比べると、まだ増えていない入院患者数と死者数がこれからどこまで増えるのか予断を許さないのです。

 ある程度の死者数を想定し、それを認めるイギリスの手法は冷静な科学的判断なのか、それとも悪魔の判断なのでしょうか。救える命を見殺しにすることになりますから、倫理的ではないと判断されるのがこれまでの常識でしょう。

 集団生物学的に有効なイギリスの戦略は反倫理的なのでしょうか。これがイギリス問題であり、答えを出すにはもっと実証実験が必要なのですが、その実験さえ反倫理的なところにイギリス問題の核心があり、それは生命倫理の中心課題の一つなのです。