生存戦略

 7月15日のイギリスの感染者は約5万人。日本とは比べようもない程多いのだが、イギリス政府は規制解除の考えを変えなかった。解除後の新規感染者数は一日あたり10万人に達する可能性があるが、それでも政府は許容範囲内と考えている。ジョンソン首相は19日の規制解除について「今やらないのならいつやるのか、今しかないだろう」と述べ、経済的理由の他に、インフルエンザが流行する秋までに、コロナ感染のピークを作ってしまおうという戦略を持っていた。ワクチン接種と感染拡大による集団免疫の確立がジョンソン首相の狙いである。これはイギリス政府がコロナとの共生を決断し、 コロナを特別扱いしないという宣言でもある。 だが、世論調査を見ても「早すぎる」という人が約7割いる。

 集団生物学的な観点から、ワクチン接種が進めば、入院し重症化する感染者は極端に減り、感染者が増えても医療への圧迫がないだけでなく、社会生活にも大きな支障は出ない。さらに、夏場に感染を増大させ、集団免疫をより強固なものにすれば、より危険な冬場の流行は起こらない筈である。コロナウイルス生存戦略に打つ勝つためにはイギリス政府の集団生物学的戦略が有効であることは確かに頷ける面を持っている。そして、これが個人の生命を基本にした医療倫理を凌駕するかのようなイギリス政府の戦略である。しかし、この戦略に基づく規制解除の政策は元上級顧問や野党から批判され、四面楚歌の状態にある。

 宝くじの販売を促進しようと、外れくじを極力減らし、くじの販売を高める戦略は誰にも妥当なものに映るのではないか。年末に出るより強力なくじの前に夏場に出るくじを早急に販売し、利益を得ることは至極当たり前のことである。ジョンソン首相の政策もこれとよく似ていて、外れくじをワクチン接種で極力減らせるのであれば、誰も躊躇なく宝くじの販売に賛成できるだろう。

 では、宝くじの販売とジョンソン政策の何が違うのだろうか。戦略は同じ構図になっていても、私たちが違うと直感するのは一方が利益、他方が生命に関わっていることだろう。感染者数の増減ではなく、その数が莫大になれば、いくら重症者や死亡者の数の割合が低くても、やはり絶対数は途方もなく大きくなり、そこに生命倫理が頭をもたげてくる。経済と生命をどのように天秤にかけるか、やはりこれまでの様々な生存戦略を再度詳しく精査する必要があるだろう。