ロゼット:タンポポの戦略

 寒い時期や人に踏まれる場所だと、地面にめりこむように咲くのがタンポポ。花が咲いているタンポポの茎と綿毛になっているタンポポの茎とでは、随分長さが違う。タンポポは花が終わるといったん茎を休ませ、綿毛になると茎をグンと伸ばす。茎を伸ばすことによって、タンポポは綿毛を風に乗せて遠くに種を飛ばそうとする。

 茎がほとんど成長せず、地上茎が無いか極端に短く、葉が放射状に地中から直接出ている状態がロゼットと呼ばれる。「地面に張りつくように広がる」姿がロゼットで、茎が立ち上がらず、葉を地面に放射状に広げ、まるで地面に張りついているように見える。

 ロゼットをつくる植物も常に茎が短い訳でなく、個体が成熟し子孫を残すときには、茎を長く伸ばし、その先に花をつける。植物にとって光は必須だが、ロゼットのように茎が短いと葉の位置が低くなり、他の植物の影に入りやすくなる。これは非常に大きなデメリット。だから、ロゼットとして適応するには、他の大型植物が生育できないような厳しい環境条件下に限られることになる。
 大きな植物がいないと、ロゼットのメリットが出てくる。まず、茎をつくるためのエネルギー投資を節約し、その分を葉に使い、光合成を増強し、根などに栄養を蓄え、将来子孫を残す際の糧とすることができる。だが、茎が短く葉が密集するので、自分の葉同士が重なるのを防ぐため、葉は茎のまわりに放射状につく必要がある。そのため、ロゼットは全体に丸い形になる。
 大きな植物が育たない条件を満たす代表的な環境となれば、冬の地面。タンポポのようにロゼット葉が地面に張りついていれば、気温が低くても日射で暖まった地面の熱で葉の温度が上昇し、光合成できる。とはいえ、昆虫に授粉してもらうために花を目立たせたり、風などで種子を遠くに飛ばしたりするためには、花の位置は高くないと困るので、花が咲くときには茎を長く延ばす必要がある。

 それにしても、タンポポの戦略は見事で、脱帽するしかない。