糀と麹、そして麴の違い

 もち米を蒸してついたのが餅、うるち米を蒸して発酵させたのが糀。私の家はその糀を原料にした味噌をつくっていた。高校を卒業するまで私もつくっていたので、今でもその工程は憶えていて、道具や材料が揃えばそれほど難しいものではない。

 ところで、「こうじ」を表す漢字は二つある。「こうじ」は、米、麦、大豆などの穀類でつくるが、現在では主に『麹』という字が使われている。これは中国から伝わった漢字である。もうひとつの『糀』は、明治時代にできた和製漢字で、米でつくった「こうじ」を指す。我が家にあった看板はこの字で、米糀は蒸したうるち米に麹菌をまいて発酵させたものである。

 米糀をみると、ふわふわした白い菌糸が蒸し米の表面を花のように覆っていて、見惚れてしまうほどに綺麗である。だから、米に花が咲いた見事な容姿が「糀」という象形文字になった。

 糀づくり(そして、味噌づくり)は冬の仕事。三斗ほどの蒸した米をムシロに広げて冷まし、麹菌をまいて、混ぜ合わせ、薄い木箱に一合ほど入れ、室に木箱を重ねて入れ、発酵を待つ。室の暖房はもちろん炭。また、糀があれば「どぶろく」はつくり放題となる。

 ところで、東京メトロ有楽町線麹(麴)町駅の表示は駅構内にも二つあり、それが「麴町(旧字体)、麹町(新字体)」。この新旧の字体の使用は東京メトロだけでなく、千代田区、警視庁、都営バスなどの表記でも同じように統一されていないのだ。混在した表記があちこちに見られる。見方によっては、麹と糀の違いより厄介である。