トポスやトピア

 トマス・モアが1516年にラテン語で出版したのが『ユートピア』で、そこに登場する架空の国家の名前がUtopia。ギリシャ語の οὐ (英語のno), τόπος (topos、ラテン語のtopia、英語のplace) を組み合わせ、「どこにも無い場所」という意味の地名とされる。だが、私たちが素朴に「理想郷」としてイメージするユートピアとは違い、「ユートピア」は人間の個性を否定した管理社会で、自由主義的で牧歌的な理想郷(アルカディアギリシャペロポネソス半島中央部にある古代の地域名で、理想郷の代名詞となった)ではなかった。

 「バイオ」は、生物学(biology)に関連するものを指す言葉で、今では生命に関する接頭語のように使われている。例えば、Biotopiaはバイオとトポス、トピアの合成語。トピアは郷(さと)という意味のラテン語で、「とぴあ浜松」を今様に訳せば、「浜松の郷(さと)」。

 ビオトープ(独: Biotop、ギリシャ語からの造語(bio+ topos))は生物たちの生息域を表す言葉で、律儀に訳せば、生物空間、生物生息空間となる。そして、小学生の夏休みの課題によく登場する。

 ガイア理論またはガイア仮説(Gaia theory、Gaia hypothesis、Gaiaはギリシャ神話の大地女神)は、生物が地球と相互に関係し合い、自身の生存に適した環境を維持するための自己制御システムを作り上げているとする仮説。また、そのシステムをある種の「巨大な生命体」と見なす仮説である。

 さて、「場所」を意味するτόποςから生じたもう一つの英語がtopic。この語は常識的に「話題」と訳される。アリストテレスでは分野を問わず、与えられた論題に対して議論を組み上げる際に参考にできる議論の形, 論理の基本法則、議論構成の経験則などの総称がトピックと呼ばれていた。

 数学におけるトポス(topos)は、topology(位相空間)上の層のなすcategory(圏)を一般化した概念である。数理論理学者たちによる更なる公理化を経て、集合論のモデルを与える枠組みとしても研究された。