私がコロナウイルスに関心をもった理由の一つ

 誰も奇妙に思うのは、いつも世間離れした哲学にしか関心をもたない私が新型コロナウイルスに関心をもったこと。その理由の一つは感染症流行の数理モデル。集団遺伝学は遺伝学でありながら、統計的な数理モデルの研究がもっぱらであるが、それによく似て、疫学や感染症学でありながら、人口学と同じ数理モデルが登場し、それが私を惹きつけたのである。どちらもほぼ数学である。むろん、感染症の流行自体への私の関心も高い。

 随分昔にKermackとMcKendrick (1927) が提案したモデルはSIRモデルと呼ばれてきた。SIRモデルは線形常微分方程式であり、パンデミック数理モデルで最もシンプルなモデルである。SIRモデルでは感染者数の増加が回復者数を上回るとパンデミックが起こるが、感染の増加を抑制することによって、パンデミックの開始を遅らせたり、ピーク時の感染者数を低く抑えることができる。

 数学的には関数y(t)について、その導関数dy(t)/dtを含んだ方程式が常微分方程式と呼ばれ、この方程式から元の関数y(t)を再現することが「微分方程式を解く」こと。微分方程式では多くの場合、t=0のときのy(0)の値を元に特殊解を求めることが多い。これが初期値問題と呼ばれる。感染数の初期値を与えてその後の推移を見るのは数学的には初期値問題を解いていること。

 私たちが介入することによって、人口や感染者数を調節することは確かに知識が力であることの紛れもない一例なのである。