モデル生物

 昨日モデル生物について記し、代表例は動物ではショウジョウバエ大腸菌、植物ではシロイヌナズナを挙げました。モデル生物は生物学、特に分子生物学で生命現象の研究で使われる生物種です。シロイヌナズナは2000年に植物としては初めて全ゲノム解読が完了しました。私はファーブルやダーウィンのように生き物すべてに強い関心をもつ少年ではありませんでしたが、小学生の頃は夏休みに動植物の採集に明け暮れました。そのためか、今でも周りの植物に関心をもっています。かつてヨーロッパでは自然哲学(物理学)と自然史(博物学、生物学)が自然研究の二大分野でした。そして、その自然史に惹かれたのがファーブルやダーウィンでした。

 ショウジョウバエ大腸菌と並んで有名な植物学でのモデル生物がシロイヌナズナシロイヌナズナは役に立たないただの雑草(ぺんぺん草の仲間)でしたが、色々な実験が出来る偉大なる「モデル植物」になったのです。シロイヌナズナゲノム解析は既に終了していて、遺伝子の働きとタンパク質が、全ての植物の中で一番詳しく調べられています。

 マッピングというのは、ある遺伝子がゲノムあるいは染色体上のどの場所にあるかを特定する作業のことです。シロイヌナズナはゲノムの解読が終了していて、染色体の数も少なく、たくさんの人が研究しているため手法が確立されている点からもマッピングが簡単にできます。また、シロイヌナズナは、世代時間(個体が成長して種を収穫するまで)が6週間と短く、塩基の数が種子植物の中で最も少なく、染色体の数も5対で、研究材料として扱いやすい遺伝学のモデル植物です。多数の突然変異株、DNAクローン、形質転換系統などが世界中で共有されていて、研究に利用できるようになっています。シロイヌナズナは、世界各地に広く分布する草本植物です。世代交代が非常に早く、およそ50日で播種から結実まで完了します。持っている遺伝子数が少ないことから、古くから遺伝学の実験に用いられてきました。現在ではゲノムの塩基配列もすべて明らかになり、最もよく研究されている植物です。

 分子遺伝学の発展はモデル生物のお陰です。生物学では、研究分野の発展に合わせて様々なモデル使われてきました。特に、遺伝子を扱う分子遺伝学の分野では、特定の生物への研究が集中することになります。モデル生物には、扱いやすいサイズで、観察しやすい、入手や維持が困難ではない、など様々な条件が求められます。遺伝学、特に分子レベルの遺伝学では、世代交代が早い、ゲノムサイズが小さい、遺伝子組み換えができるなどの条件が重要になります。また、ゲノム配列が解読されると、その生物のモデル生物としての有用性は益々高くなります。世界中の研究者が同じモデル生物を扱うことによって、研究を効果的に進めることができます。対象が同じ生物であれば、研究結果や研究材料を共有し、共通の知識を蓄積できるからです。以前は、モデル生物の代表と言えば大腸菌でした。世代交代は最短で20分と非常に短く、寒天培地で、1つの細胞と同一の遺伝子を持った株が無数に手に入ります。大腸菌のプラスミドで、遺伝子組み換え技術が実用化されました。現在も大腸菌がなければ、分子生物学の実験は立ち行きません。

 真核生物のモデル生物はショウジョウバエで、長い歴史をもっています。染色体上の遺伝子の相対的位置を示したものが「染色体地図」で,モーガンらが初めてキイロショウジョウバエで作成しました。コロンビア大学のキャンパス付近に捨てられるバナナの皮などで簡単に飼育できるミバエが選ばれ、最初のモデル動物になりました。モデル生物によって、野外での採集と観察から、実験室での実験へと研究方法が変わったのです。ハエの産卵数は1日に約50個、10日ほどで成虫になります。体長2~3mmで、試験管でも飼育が可能です。モーガンが白い眼の突然変異を発見して以来、体の色などの突然変異が見つかりました。それらを用いて、染色体地図が初めて明らかにされました。

*物理学や化学にはモデル物体、モデル物質なるものはあるでしょうか。

シロイヌナズナ