有明の月

 「有明の月」は夜が明けても、まだ残っている月のことで、月齢16~月齢29までの月というのが紋切型の説明。有明の住人が自分の見る月はいつも有明の月と言い張っても詮無いことで、この奇妙さは「有明」という地名のために過ぎない。そんなローカルなことは脇に置き、もっとユニバーサルな話をしよう。

 「有明の月」を詳しく見てみよう。月は新月からはじまり、三日月、満月へと形を変え、また新月に戻るという「満ち欠け」を約29.5日の周期で繰り返している。この満ち欠けが「月齢」で、新月は月齢0。月齢15前後の満月の時は夜に月が昇り、朝方に沈んでいく。そのため、月齢16以降の有明の月が夜明けの空に残っていくことになる。

 有明の月の歌となれば、壬生忠岑(みぶの ただみね)の歌(『古今集』)が浮かんでくる。

有明の つれなく見えし 別れより 暁(あかつき)ばかり 憂(う)きものはなし

有明の月は冷淡に見え、相手の女にも冷たく帰りをせかされた。夜明け前の暁ほど憂鬱な時はない。)

 また、俳句もたくさん作られている。例えば、

白菊や 有明月の 消えかゝり 松藤夏山

 私が見る有明の月の情景は、

朝ぼらけ 有明の月 ビルを越え