記憶することの不具合:二つの忘れ方

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 記憶についての知識を再確認しておきましょう。「記憶する」という過程は「記銘、保持、想起」の三段階からなっています。あるいは、過去の経験を「符号化、貯蔵。検索」の三段階に分けて記憶することです。「記銘」は外部の刺激がもつ情報を意味に変換して記憶として取り込むこと、「保持」は記銘したものを保存しておくこと、「想起」は保存されていた記憶を後で外に表現することです。ですから、記憶の不具合は三段階のどこかで起こることになります。コンピューターの情報処理過程との対応を意識しながら、それぞれの過程をまとめておきます。
記銘(符号化)
 入力された感覚刺激を意味情報に変換し、保持するまでの一連の情報処理過程を示すのが記銘、または符号化です。意味を理解できる母国語では記憶できるが、意味を理解することができない外国語では記憶しにくい経験が私にはあります。
保持(貯蔵)
 記銘によって変換された意味情報は保持されますが、入力された情報が同じでも、保持される情報は人によって異なるのが普通です。意味情報に変換される際に使われる知識が人によって異なるためです。
想起(検索)
 保持されている記憶が意識に呼び起こされることが想起で、想起のされ方には再生、再認、再構成の三つがあります。
再生:保持されている記憶がそのままの形で再現すること
再認:以前経験したことを「経験した」と認識すること
再構成:保持されている記憶のいくつかを組み合わせて再現すること

 誰でも加齢と共に脳の機能が衰え、物忘れが始まります。加齢による物忘れは「うっかり時間を忘れてしまう」、「書類をどこに置いたか忘れてしまう」などで、認知症の症状とは違います。加齢による物忘れは想起の機能が低下することで、覚えていることを思い出すまでに時間がかかるのです。そのため「約束したこと」や「書類をしまったこと」自体は覚えていて、「自分が忘れていること」は自覚しています。
 一方、認知症の症状にによる物忘れは、「約束したことを覚えていない」、「書類をしまったことを忘れる」といったもので、時間や場所ではなく、「そのこと自体」を覚えていられないのです。これは記憶の最初の記銘ができなくなることによって生じます。アルツハイマー型の認知症では少し前の経験そのものを忘れてしまいます。そのため、何度も同じことを尋ねるといったことが生じます。体験自体の記憶がないので、患者は「約束なんかそもそもしていない」とか「書類がない、盗まれた」と思い込んでしまいます。
 「知っていることを覚えているのに、覚えていることを引き出せない苦しみ」は、多分再認できるが再構成できないという想起になるのでしょう。「忘れる」という動詞はとても厄介な動詞で、「知る」に比べるとまるで解明されていない動詞です。「知る」を知るには「忘れる」を知らなければならず、「忘れる」を知るには「憶える」を知らなければなりません。記憶は謎だらけです。

*最初の画像について、次の問いに答えてみて下さい。

それは何でしたか? 水鳥は何羽いましたか?