「住みよさランキング」の素朴な読み方

 妙高市が「住みよさランキング」で毎年順位を上げていて、2017年には何と全国18位にランクされました。それを紹介したところ、妙高市やその周辺の方々からそんなランキングは信用できない、机上のランキングに過ぎないというような趣旨のコメントをいただきました。都市にランキングがあっても、「住みよさ」のランキングはないのではないか、というのも、その判定評価の過程で生活実感がどこにも反映されていないから。こんな思いがコメントに滲み出ていたことを念頭に、「住みよさランキング」の中の妙高のデータをどのように読むか、素朴で、素直な読み方を述べておきます。ランキングそのものを最初から全否定するような子供じみたことはせずに、ランキングの中味に関心を払ってみましょう。
 高校や大学の入試の偏差値は受験生には大きな関心事ですが、本当に大切なのは学校や大学の研究・教育そのものです。ですから、ランキングの場合も同様で、肝心なのは都市の中味なのです。さらに、江戸時代の封建制の中で生まれた洒落た江戸文化は封建制の中で生まれたのだから封建的なものだなどとは誰も思いません。ですから、ランキング作成に使われたノウハウがある思想の中で生まれたものだから、そのノウハウもその思想に毒されたものだとも誰も思いません。
 まず、データ収集の5つの項目と15の指標を再録しておきます。

[安心度]
・病院:一般診療所病床数(人口当たり)/2015年10月:厚生労働省「医療施設調査」
介護老人福祉施設:介護老人保健施設定員数(65歳以上人口当たり)/2015年10月:厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」
・出生数(15~49歳女性人口当たり)/2015年度:総務省住民基本台帳人口要覧」
・保育施設定員数-待機児童数(0~4歳人口当たり)/2015年10月:厚生労働省社会福祉施設等調査」、2015年4月:厚生労働省保育所関連状況取りまとめ」
[利便度]
・小売業年間商品販売額(人口当たり)/2014年:経済産業省「商業統計」
・大型小売店店舗面積(人口当たり)/2016年4月:東洋経済新報社「全国大型小売店総覧」
[快適度]
・汚水処理人口普及率/2016年3月:国土交通省農林水産省環境省「汚水処理人口普及状況」、各都道府県資料
都市公園面積(人口当たり)/2015年3月:国土交通省調べ
・転入・転出人口比率/2013~2015年度:総務省住民基本台帳人口要覧」
・新設住宅着工戸数(世帯当たり)/2013~2015年度:国土交通省「建築着工統計調査」
[富裕度]
・財政力指数/2015年度:総務省「市町村別決算状況調」
地方税収入額(人口当たり)/2015年度:総務省「市町村別決算状況調」
・課税対象所得額(納税者1人当たり)/2015年度:総務省「市町村税課税状況等の調」
[住居水準充実度]
・住宅延べ床面積(1住宅当たり)/2013年10月:総務省「住宅・土地統計調査」
・持ち家世帯比率/2015年10月:総務省国勢調査
*偏差値は、ある集団の中での位置を示す数値のこと。平均点をとった人の偏差値を50として平均点より得点が上なら偏差値は51、52…となり、得点が平均点以下ならば49、48…となります。評価方法は15指標それぞれについて平均値を50とする偏差値を算出し、それらを平均して、「安心度」、「利便度」、「快適度」、「富裕度」、「住居水準充実度」の部門ごとの評価、および総合評価を行っています。

 妙高市の総合評価偏差値は55.43、全国順位は安心度47位、利便度238位、快適度667位、富裕度366位、住居水準充実度10位です。これだけのデータをもとに、上記の15指標を参考にしながら、妙高市の特徴を素直に抽出してみましょう。
 住居水準充実度が10位で格段に高いのですが、住宅の延べ床面積が広く、持ち家世帯比率が高いことを示しています。他の都市に比べ、「広い自宅に住んでいる」人がとても多いということです。広いのは田舎で土地が十分あり、農家のために納屋や作業場があるためだと推測できますが、一方でアパートや賃貸住宅が少なく都市化が進まず、若い人の流入が少ないとも推定できます。「自宅が多い」ことが何を意味するか解釈次第で随分違うシナリオが考えられます。
 次は安心度。病院、介護老人福祉施設の数や定員数、そして出生数と保育施設定員数の4指標です。前者が大人、後者が幼児で、これで安心とは到底言えませんが、安心を生みだす基本の4つであることは頷けます。これが妙高市は47位(各指標が何位かは不明)で、全国の中では恵まれていることになります。
 一方、快適度は667位と一番低い順位です。転入、転出が少なく、新しい住宅の建設が少ないことから、活気がなく、沈滞した都市像が浮かんできます。住居水準充実度と快適度を「広い自宅」と「古く住み続ける自宅」と捉えるなら、それらが一方ではプラスに、他方ではマイナスにカウントされていることを示唆しています。ここに妙高市のランキング躍進の謎を解く鍵があるようです(1)。
 こうして合計6つの指標で妙高市は高い順位となっていて、それらが全体の評価に反映されて総合評価が18位となった訳です。
 偏差値を使ったのは高校や大学の入試での偏差値を考えればよいと思います。それと同じ理由で偏差値が採用されています。異なる指標で測られた値を比較し、総合するには偏差値が適切なのです。高校や大学の偏差値は受験の目安、学校の評価になり、ランク付けされているのを良く見ますが、それと同じ意味で偏差値が都市の総合評価、つまり順位になっています。
 まとめると、妙高市が「住みよい」という評価を受けた理由は、広い自宅と医療・保育の充実(とはいえ、あくまで相対的な意味での充実)ということになります。これは私たちそれぞれが「住みよい」と実感する内容とは当然一致しません。私たちは生活状況がみな違っていて、老人には医療が、若い夫婦には保育が必要かもしれませんが、もっと個人的な「住みよい」理由をもっています。欲が深く、享楽的な私たちは実にたくさんの勝手な「住みよい」理由を隠し持っています。それらよりずっと単純な意味での「住みよい」ことをランキングで知った上で、例えば妙高市が順位の低かった「快適度」についてどの都市がどの辺の順位なのか見るとさらに色んな空想ができるのではないかと思います。
 上の15の指標は客観的なものですが、文化サークルの数や参加人数、お祭りの参加者数等は少し主観的なものが入り、友人の数は相当に主観的になり、好きな風景の数となれば立派に主観的になります。指標として何をどのように選ぶかを考え、指標の選択が結果をどのように変えるかを想像する方が、「住みよさ」は主観的だからランキングなど最初から不可能と即断するよりずっと面白い資料の読み方だと思います。でも、それは意外に難しいことなのです。ですから、安全対策で15の指標はすべて客観的なのです。主観的なものと客観的なものを無造作に総合すると、どんな結果になるか誰にもよくわからないのです。
*ランキング結果は「住みよさランキング2017」で検索すればわかります。

(1)妙高市のように住居水準充実度が高く、快適度が低い都市で、総合順位の高い都市をピックアップしてみると、25位の小矢部市富山県、住が7位、快が513位)、27位の七尾市(石川県、住が41位、快が691位)、37位の大仙市(秋田県、住が26位、快が467位)、47位の飛騨市岐阜県、住が9位、快が663位)があります。いずれも小都市で、妙高市と似た生活環境が浮かんできます。これらの小都市の同じような特徴を丁寧に調べ、今後の都市像を共に探ることが有効だと思われます。