乙女椿の花たち

 オトメツバキ(乙女椿)はユキツバキの園芸品種。江戸時代から栽培されていて、湾岸地域でもよく見ます。丈夫でどこでも栽培しやすく、千重(せんえ)咲き(花弁が数多く重なり、花心部に雄蕊を欠くか、あるいは見えないもので、宝珠(ほうじゅ)咲きとも呼ばれる)で、花色はピンク。北陸地方に似た品種が多く、江戸時代末期に作出され、岩崎灌園(かんえん)著『本草図譜』(1829)に既に載っています。サザンカにも同じようなオトメがあり、サザンカ「オトメ」もサザンカの園芸品種。花色はピンクで、やはり千重咲きで、11月から開花する早咲きです。オトメツバキと瓜二つの花を咲かせます。

 3月末でも、オトメツバキ(乙女椿)の花を見ることができます。淡いピンク色の花弁が幾重にも重なる姿は、私たちを惹きつけます。ツバキは日本に古くから自生する常緑樹で、ユキツバキは東北と北陸の豪雪地帯に分布し、ヤブツバキの変種と言われています。オトメツバキはそのユキツバキからを作出された園芸品種です。

 ツバキの花の特徴はその中心にある筒状の黄色い雄しべの集まりですが、オトメツバキの雄しべは中央の花弁の中に慎み深く隠され、見えません。江戸時代、オトメツバキを栽培している藩は他藩への流出を固く禁じたことから「お止め椿」と呼ばれ、それが「乙女椿」に変わったという説もあります。その花色から別名は「ウスオトメ(淡乙女)」。オトメツバキは1911(明治44)年に海外に紹介され、英名はPink Perfection(ピンク・パーフェクション)。