初冬のビワの花

 バラ科のビワとなれば、誰もが果物のビワを思い出すだろうが、その食べ頃は初夏。晩秋に花をつけ始めるビワはへそ曲がりで、天邪鬼だと思いたくなるが、サザンカやツバキ、そしてボケも同じ頃に花をつけ始めることを考えると、確かに少数派だが、異端児という程ではない。「ビワ」の語源は葉や実の形が楽器の琵琶に似ているため。古くに中国から渡来し、野生化し、奈良時代には既に果実として食べられていた。ビワの花は12月頃から枝の先に白色五弁の小花をたくさんつける。開花は果樹の中で最も遅く、寒さを防ぐため、蕾や花柄は淡い褐色の毛に覆われている。

 雪国育ちの私には常緑のビワは馴染みが薄く、その実も異国の果物という漠然とした認識しかなく、それは今でも変わらない。ビワは花でも種でもなく、実が主役であることを私に印象づけたのは坪田譲二の童話「ビワの実」。そこには樵の金十のビワを食べる体験とビワの木の再生が描かれている。「びわのみ文庫」はその坪田譲治が西池袋の自宅の敷地内に昭和36年に建てた児童書と児童文学研究書の文庫で、彼の蔵書を近隣の子どもたちや児童文学を研究する学生・研究者のために開放したものだった。当初は児童書や児童文学研究書の充実した図書館が他になかったため、多くの人が利用し、貴重な存在だった。