私の蝉風景:孫たちへ

 蝉時雨の「蝉」は当然夏の季語なのだが、蜩(ひぐらし、かなかな)やつくつくほうし(法師蝉、つくつくし)は秋の季語である。私にはアブラゼミやミンミンゼミが夏休みを代表する蝉なのだが、かつての日本ではアブラゼミやミンミンゼミよりも蜩のほうが馴染み深かったらしい。確かに、夕方の蜩の鳴き声は子供心にも何とも趣があると感じたのを憶えている。

 『枕草子』にも、「虫はすずむし。ひぐらし。蝶。まつむし。きりぎりす。はたおり。われから。ひを虫。ほたる。(後略)」と列挙されている。確かに、夏の蝉より秋の蝉の方に人々の関心が集まっていたようである。

*蝉となれば、思い出されるのは加藤正世。彼は昭和初期の昆虫分類学の黄金期を支えた昆虫学者で、セミ博士と称されるほどのセミ研究の権威として知られています。また、高校教諭として、昆虫を用いた教育普及活動の先駆的な人物でもあります。「昆蟲趣味の会」を立ち上げ、昆虫雑誌「昆蟲界」を発行し、多くの昆虫少年・青年たちに発表の場を提供することで、後の日本昆虫界をリードする多くの昆虫研究者を育成しました。

 セミ(蟬、蝉)はカメムシ目半翅目)頸吻亜目セミ上科に分類される昆虫の総称。セミは「鳴く昆虫」の一つだが、鳴くのは成虫の雄だけ。熱帯や亜熱帯の森林地帯が分布の中心で、亜寒帯の森林、あるいは草原に分布するものもいる。約3,000種が知られている。成虫の体は前後に細長い筒型で、頑丈な脚、長い口吻、発達した翅などが特徴。一方、触角は短い毛髪状で、翅は前翅が大きく、休息する際は体の上面に屋根状にたたむ。前翅後縁と後翅前縁は鉤状に湾曲していて、飛翔する際はこの鉤状部で前後の翅を連結して羽ばたく。飛翔能力は高く、羽音を立てながらかなりの速度で飛ぶ。オスの成虫の腹腔内には音を出す発音筋と発音膜、音を大きくする共鳴室、腹弁などの発音器官が発達し、鳴いてメスを呼ぶ。また、外敵に捕獲されたときにも鳴く。私もオスを捕まえた時に捕虫網の中で鳴くのを何度も経験した。

 一方、メスの成虫の腹腔内は大きな卵巣で満たされ、尾部には硬い産卵管が発達している。セミは、卵→幼虫→成虫と不完全変態をする虫。日本の場合、成虫が出現するのは主に夏だが、ハルゼミのように春に出現するもの、チョウセンケナガニイニイのように秋に出現するものもいる。

 鳴き声や鳴く時間帯は種類によって異なるため、種類を判別するうえで有効な手がかりとなる。例えば、ニイニイゼミは一日中、クマゼミは午前中、ミンミンゼミ、アブラゼミツクツクボウシは午後、ヒグラシは朝夕、などと鳴く時間が異なる。真昼の暑い時間帯に鳴くセミは少なく、比較的涼しい朝夕の方が多くの種類の鳴き声が聞かれる。

 セミを捕えるのに失敗すると、逃げざまに「尿」をかけられることが多く、私も何度もかけられた。飛び立つときに体を軽くするためという説や、膀胱が弱いからという説もあるが、体内の余剰水分や消化吸収中の樹液を外に排泄しているだけらしく、樹液を吸っている最中にもよく排泄する。

 セミが成虫として生きる期間は2000年代から研究が進み、1か月程度と考えられている。以前は1、2週間と考えられていたが、その理由は、成虫の飼育が難しく、飼育を試みてもすぐ死んでしまい、多くの個体が寿命に達する前に鳥などに捕食されるためだった。幼虫として地下生活する期間は3~17年(アブラゼミは6年)にも達し、セミは昆虫としては寿命が長いと言える。