リナリアとマツバウンランから…

 一昨日はキンギョソウ、昨日はリナリアヒメキンギョソウ)について記した。キンギョソウゴマノハグサ科キンギョソウ属、ヒメキンギョソウゴマノハグサ科リナリア属で、リナリア属の園芸種の和名は「リナリア(Linaria)」。リナリアの花によく似ているのが野の花の一つマツバウンラン(松葉海蘭)。二つとも花は唇形花。マツバウンランゴマノハグサ科一年草または二年草。よく見ると、園芸種のリナリアと野生種のマツバウンランは「園芸と野生」の特徴を示しながら、二つの種の間の結びつきを示している。

 マツバウンランは海外から日本へやってきた帰化植物。原産地は北アメリカで、1941年に京都市伏見区向島で採集された記録がある。日本では渡来した時期を目安にして、江戸末期以後の海外との交流によって渡来した「新帰化植物」、有史以前に渡来した「史前帰化植物」、その間に帰化した「旧帰化植物」に三分化されている。マツバウンラン帰化ルートは残念ながらよくわかっていない。

 「園芸種」や「野生種」の「種(species )」は生物集団の基本単位だが、ある生物集団が種かどうかを含め、種の概念を巡る論争が今も続く。分類学者は目に見える外部形態に基づき、新種であるかどうか判定していた。今日ではDNAの塩基配列の情報を手がかりにして生物多様性を明らかにしつつあるが、これが種をめぐる意見の対立を生み出してきた。

 科学としての分類学を18世紀に独立した研究分野としたのがスウェーデン博物学者リンネ(Carolus Linnaeus)。リンネは生き物を階層的グループに分けた。例えば、人間はヒト(Homo sapiens)という種名をもつ。ヒトという種はヒト属(Homo)に、ヒト属は霊長類という目(もく)に、さらにその上の哺乳類という綱(こう)に属する。リンネが作りあげたのがこの階層的な体系。リンネは種が神によって創造され、不変のまま現在に至ったと考えた。彼の体系は不変の種という考えに基づいている。

 ダーウィン(Charles Darwin)によれば、種は不変でなく、進化してきた。時間の経過とともに自然選択が働き、適応できない個体は消え去り、環境により適応するようにさらに変化した。その結果、新しい種が誕生した。20世紀に入り、遺伝学が確立され、種は「互いに交配可能な個体群(生物集団)」となった。マイア(Ernst Mayr)は1942年に「生物学的種概念」として「種とは遺伝子プールで、その中では互いに交配するが,他の集団とはうまく交配できないような個体群の集まり」と定義した。だが、種と呼べるためにはどのくらいの生殖的隔離があればいいのか、さらに、単性の種をどうするか、よくわからず、マイアの種概念に満足できない研究者たちは新しい種概念を模索した。その結果、共通する祖先をもつ「系統学的種概念」が考え出された。類縁関係の近い生物は共通の特徴をもつが、それはそれらが祖先を共有するからと考えられた。この概念の問題点は種がどんどん細分化されてしまう点である。さらに問題を厄介にしているのが微生物。地球の90%以上を占める微生物の種はどのように定義すればよいのか。園芸種と野生種の区別どころか、種そのものの定義が揺れ動いたままなのである。

リナリア

リナリア

マツバウンラン

マツバウンラン