スイセンの花、あるいは雪中花(華)

 ヒガンバナ彼岸花)科のスイセンの開花時期は12月中旬から4月末までと長く、湾岸地域でもあちこちでスイセンが花をつけ始めました。周りで最もよく見かけるのは白い花の中心部が黄色の「日本水仙」(画像)。

 スイセンは地中海沿岸が原産で、平安末期に中国から渡来しました。漢名の「水仙」を音読みして、「すいせん」となったのですが、漢名は「仙人は、天にあるを天仙、地にあるを地仙、水にあるを水仙」という中国の古典から、きれいな花の姿と芳香が「仙人」のようだということから命名されました。学名でもある「ナルシサス(Narcissus)」はギリシャ神話の美少年の名前。泉に映った自分の姿に恋をし、毎日見つめていたら、花になってしまったという物語に由来します。

 雪を割って春を連れてくる花ということから、別名は「雪中花(華)(せっちゅうか)」で、雪に埋もれた人々に雪の中で春の訪れを告げるのがスイセンです。日本水仙は、室町時代以前に中国から渡ってきて、日本に自生している水仙です。垂直に伸びる細い葉と、きりりと引き締まった印象の花で、清々しい香りがあり、日本人の心情に適うものがあるようです。

 芭蕉の句に「其のにほひ 桃より白し 水仙花」があります。ところが「水仙」が直接歌や句に登場するのは少なく、「桃」も「梅」も渡来植物ですが、大和言葉として詠まれてきました。でも、雪中花(華)はどう見ても漢語ですし、「水仙」の大和言葉による和名は作られませんでした。例えば、本居宣長は「梅よりも なほさきだち 山人と 名におふ花や 花のこのかみ」(『鈴屋集』)のように、大和言葉の「山人」を花名として詠っています。

 とはいえ、上記の芭蕉の句だけでなく、「水仙や 寒き都の ここかしこ」と「水仙」を使った与謝蕪村や、「白鳥が 生みたるものの ここちして 朝夕めづる 水仙の花」と詠んだ与謝野晶子など、時代が下るにつれ、「水仙」がそのまま使われる場合が増えてきました。