奇妙な報道表現

「血縁関係に矛盾がない」

 DNAの核は個人を特定できるが、ミトコンドリアDNAは母親から遺伝されるもので、血縁関係を調べることはできても、個人の特定はできない。それゆえ、美咲さんの骨の可能性はあるが、断定はできず、母親と血縁関係のある他の人の骨の可能性もゼロではない。これが「血縁関係に矛盾がない」と表現されているようなのだが、何とも奇妙な表現である。几帳面に言い直せば、見つかった骨がとも子さんと血縁関係にあり、美咲さんもその一人だが、美咲さんただ一人という訳ではないということである。

「一致する、判断する」

 「山梨・道志村の山中で見つかった肩甲骨は小倉美咲さんのものと一致したことを明らかにし、美咲さんが死亡したと判断した。」という一文も奇妙な文である。正確には肩甲骨のDNAが美咲さんのDNAと一致したというべきで、「私の顔は私のものと一致した」などと誰が言うだろうか。「肩甲骨は美咲さんのものである」というのが普通の文である。「美咲さんが死亡したと判断した。」は誰が判断したか表記がない日本語で、「美咲さんは死亡した」で十分で、鑑定者の最終判断をなぞる必要はない。

 二つの奇妙な表現は異なる理由によるが、いずれも鑑定報告書の発表をそのまま繰り返すニュースから出てきたものである。報告書から抜粋された非日常的で、不正確な表現をニュースの解説では正しい日常文に表現し直し、伝える必要がある。