「ふるさと」トリヴィア(2)

 次は「ふるさと」の漢字表記についてです。「ふるさと」を漢字で書くと「古里」なのだそうです。私などは「ふるさと」は「故郷」だと思うのですが、近年は新聞の影響で「古里」が多くなっています。でも、辞書をみると「ふるさと」は「古里・故里・故郷」となっていて、どれでもよさそうに見えます。

 では、なぜ「ふるさと」は新聞では「古里」と表記されるのでしょうか。新聞の表記は常用漢字表内の漢字(表内字)を音訓の範囲内(表内音訓)で表記すると決めています。「故郷」の字はいずれも表内字ですから使用に問題はありませんが、「ふるさと」と読むと、表内音訓での表記から外れてしまいます。ほかに漢字表の付表で、「父さん」や「息子」などのように当て字や熟字訓など特に使用することが認められているものもありますが、その中でも故郷を「ふるさと」と読むことを認めていません。従って、あくまで故郷は「こきょう」なのです。

 1914(大正3)年の『尋常小学唱歌6』に収録されたのが高野辰之作詞、岡野貞一作曲の文部省唱歌「故郷」です。この曲のタイトルは、「故郷」と書いて「ふるさと」と読みます。そのためか、私には「ふるさと」は「故郷」で、「古里」ではないのです。でも、上記の理由から新聞は「ふるさと」を「故郷」とは書かず、「古里」と書きます。

 常用漢字表では「故」に「ふる」という読みが無く、「郷」にも「さと」という読みが無いため、「故郷」を「ふるさと」と読むのは、常用漢字表に従う限りできません。一方、「古」、「里」は、常用漢字表に「ふる」、「さと」の読みがあります。それゆえ、新聞では「ふるさと」は「古里」と書くようになったことがわかります。

 『日本国語大辞典』は平安時代から明治中期までに編まれた辞書の中から代表的なものを選んで、その辞書にある漢字表記を示しています。「故郷」の表記は室町時代中期に成立した『文明本節用集』や、江戸時代中期の『書言字考節用集』にあります。一方の「古里」の表記が現れるのは明治になってからです。

 常用漢字表に厳格に従い、認められていない読み方ができないなら、「為替」は使えず、「梅雨」は「つゆ」とは読めないことになります。他にも、「美味しい」、「景色」、「曲者」、「許嫁」、「従兄弟」、「意気地なし」、「脚気」、「牡蠣」など…。そして、「秋刀魚」も。

 そのためか、漢字表記をやめて、ひらがなの「ふるさと」に統一した使用例が「ふるさと」納税です。役所は総じてひらがなの「ふるさと」を使っているようです。