「アリとキリギリス」

 湾岸地域の歩道は舗装ブロックが多い。ブロックとブロックの間に僅かな隙間があり、夏にはそこにアリがよく巣をつくる。アリたちが忙しく動き回るのを見ながら歩いていると、緑色のショウジョウバッタに似た昆虫が足元に登場した。よく見れば、クビキリギリス

 キリギリスとバッタを見分けるには触覚と脚の長さで、いずれも短いバッタに対してキリギリスはどちらも長いと記憶を確かめながらも、思い起こすのは『イソップ寓話』である。元々は「アリとセミ」だったが、ギリシャにいたセミはヨーロッパ北部にはおらず、そのため話がキリギリスに改変された。日本に伝わった寓話は改変後のもので、「アリとキリギリス」で広まっている。夏の日本ではセミの方が子供にはわかりやすい。

 夏の間、アリたちは冬の食料を蓄えるために働き続け、キリギリスはヴァイオリンを弾き、歌を歌って過ごす。やがて冬が来て、キリギリスは食べ物が見つからず、最後にアリたちに乞い、食べ物を分けてもらおうとするが、アリは食べ物を分けることを拒否し、キリギリスは飢え死んでしまう。だが、これでは残酷だというので、色々改変されてきた。

 改変の理由はいくつか挙げられる。(1)困った人を助ける優しい人になるべきである、(2)後先を考えずに過ごすと後で困る、(3)幸せの尺度は人によって違う、と言ったものが主なものである。

 『イソップ寓話』の内容の変遷史は、ギリシャ思想とキリスト教思想が混濁していることがよくわかる。あなたなら「アリとキリギリス(あるいは、セミ)」をどのように改変するだろうか。

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