赤と黒

 今年の秋も終わりで、赤や黒の実も少なくなり出している。花なら「紅白」、実なら「赤と黒」で、「赤と黒」なら最近の韓国ドラマを思い浮かべる人が多いかも知れない。とはいえ、定番の『赤と黒Le Rouge et le Noir)』は、19世紀フランスの作家スタンダールの歴史長編小説。「赤と黒」は主人公ジュリアンの軍人(赤)と聖職者(黒)の服の色だと言われている。赤と黒は対立を表すのに用いられる場合が多いが、赤い実や黒い実となると、赤と黒は共に鳥類に好まれる色となる。

 秋は実りの季節で、野山を歩いていると、ノイバラ、ピラカンサナンテン、ガマズミ、ニシキギなどの赤い実が目立つ。赤い実は人の目を楽しませるためではなく、鳥たちに「食べてほしい」と訴えているのだ。色を見分けることができるのは霊長類と鳥類で、目立つ色をしていれば鳥や猿が見つけやすく、彼らに食べられることによって、種子は糞と一緒に排泄されて、その植物の分布拡大に寄与できる。このダーウィン風の適応戦略は赤い実だけでなく黒や紫の実にも成り立つ。黒い実は鳥が多い熱帯や暖温帯に多く、赤い実は鳥の少ない寒帯や亜寒帯に多いらしい。花が昆虫や鳥を惹きつける戦略と実が鳥を惹きつける戦略とが部分的に重なっても、受粉と種の散布の違いはしっかり区別されていることが見て取れる。

 既に赤い実については記したので、黒い実を幾つか挙げてみよう(画像はネズミモチ、カクレミノ、ハマヒサカキ、マメツゲの順)。どれも秋の終わりにしっかり実をつけ、鳥たちに食べられるのを待っている。鳥たちが食べることはこれらの植物の巧みな罠にかかること。何とも見事な罠で、これらの植物の知恵者ぶりに脱帽するしかない。

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ネズミモチ

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カクレミノ

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ハマヒサカキ

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マメツゲ