不思議なヤツデの花

 大きな葉の裂け目が7つ、9つと奇数なのに、「八つ手」と呼ばれるヤツデはウコギ科の常緑低木。さらに不思議なことに、花粉を運ぶ昆虫が少ない12月に花をつける。この時期のハエやアブを独占するのがヤツデの戦略だと考えれば、開花時期の謎は解ける。 

 もっと不思議なのはヤツデの花の変化。小さな花が集まってできるのが花序で、ヤツデは球状の散形花序が集まって大きな円錐花序をつくっている(画像)。花弁は5個、卵形で長さ3〜4mm。雄しべは5個、葯は白色、花柱は5個。両性花は雌しべが成熟する前に雄しべが花粉を散らし、自家受粉を避けている。画像を見比べると、花びらも雄しべもある花(雄性期)と雌しべしかない花らしくない花(雌性期)とが区別できるだろう。花は枝分かれ回数が少ない花序から順に咲く。上の花序から順に咲き、同じ枝分かれ回数のものはほぼ同時に咲く。上の花序の雄性期、雌性期、次の花序の雄性期、雌性期と移っていく。この開花のズレを巧みに利用して昆虫たちを操っている戦略が垣間見える。さらに、花序の中で最後に咲くものは雄性期だけで、それが終わると枯れてしまい、無駄を省いている(これがいわゆるヤツデの雄花)。

 ヤツデの両性花の雄性期から雌性期への変化は、花の集団が規則をもち、昆虫たちと強かな交流、相互作用を繰り広げながら、損得勘定をベースにした生活を営んでいることを見事に示している。ヤツデの花の戦略が最適とは思えないが、そのことがかえって試行錯誤の結果であることを物語っていないだろうか。

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雄性期

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雌性期