月見草と宵待草

「三七七八米の富士の山と、立派に相対峙し、みじんもゆるがず、なんと言うのか、金剛力草とでも言いたいくらい、けなげにすくっと立っていたあの月見草はよかった。富士には、月見草がよく似合う」(太宰治富嶽百景』)

 太宰は『竹取物語』を下敷きに富士と月見草を対峙させ、大きく俗な富士と小さくけなげな月見草を比べてみせたのだが、その月見草は黄色いマツヨイグサの一種だったようである。マツヨイグサでは『竹取物語』が消えてしまう。だが、実際の月見草は金剛力草と言うイメージとは違って、上品な白い花で、儚げで、か弱いイメージの花。また、「金剛力草」は植物名ではなく、金剛力をもった草のことで、金剛草ではない。

 ツキミソウ(月見草)はアカバナ科マツヨイグサ属に属するメキシコ原産で、江戸時代の末期に観賞用として日本に入ってきた。白い花を夕方から夜につけ、翌朝には萎んで、花びらはピンク色になるのだが、私は見たことがない。私が知っているのはヒルザキツキミソウという園芸種。ツキミソウが導入された時期に相前後して、他のマツヨイグサの仲間、マツヨイグサ、オオマツヨイグサ、メマツヨイグサなども導入され、新天地に来たツキミソウは他の仲間たちとの生存競争に負け、野生のツキミソウはほぼ見られなくなった。

 千葉県の銚子での儚いひと夏の恋を歌った竹下夢二の詩は、1912年に雑誌『少女』で発表された後、バイオリニストの多 忠亮(おおの ただすけ)により曲がつけられ、抒情歌「宵待草」として愛唱された。「宵待草」のモチーフとなったのはマツヨイグサ(待宵草)。太宰の月見草、夢二の宵待草はいずれもマツヨイグサを指す。夢二は間違いに気づき、訂正しようとしたが、「宵待草」の方が雰囲気があって良いということで、そのままになった。

 普通に使われる月見草は、呼び名の通り、暗くなってから開花するマツヨイグサのことで、次のような種類がある。

 オオマツヨイグサは、ヨーロッパ経由で日本に入ってきた。高さは150㎝と大型。葉は長い披針形で、短毛が密生。花期は、6月から8月。花は径6,7㎝と大きく、萎んでも色は変わらない。太宰が『富嶽百景』で言及した月見草は、このオオマツヨイグサマツヨイグサと思われる。メマツヨイグサはオオマツヨイグサと生息環境が重複し、今ではずっと優勢。葉は長楕円形で先がとがり、表面にやや光沢がある。花期は7月から9月。花はやや小型で、萎むと、黄色か、わずかに赤くなる。マツヨイグサは、前の二種よりも小型。花期は5月から7月。花は萎むと、橙色になる。

 長々書いてきたが、画像はメマツヨイグサ

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