物質、エネルギー、情報という概念の成り立ち

<「物質」概念の成立>
 この世界をつくっているのは物質。現在では自明の、この理解がいつ頃生まれたかは先史時代までは遡れない。それは、「物は何からできているか」という問いの答として考え出された概念だからである。「物、物質」という抽象概念自体が、おそらくは人間が道具を手にした後で、それを手がかりに生み出されたものである。
 紀元前5世紀デモクリトスは、この世界のすべての物は「原子」からできているという「原子論」を提唱した。その後、アリストテレスは物を含めた世界の存在を、「質料」と「形相」の二つの基本概念を用いて説明した。「質料」は現在では「物質=エネルギー」に、「形相」は「(最広義の)情報」にあたると考えればわかりやすいが、決して同じではない。
 この二人によって提唱された「物質」の概念は、さまざまな思索を経て、17世紀哲学者ルネ・デカルトによって「精神」との対として、「物と心」の一方として確立された。

<「エネルギー」概念の成立>
 一方、「エネルギー」概念は、「物質」よりもはるかに遅れて登場。今でもしばしば「力」と「エネルギー」は混同される。「エネルギー」は次のような様々な形をとることができるため、それらが本質的に同じものとして理解され、単一の概念として認識されるようになるには、長い思索と実験の積み重ねが必要だった。

運動エネルギー、位置エネルギー、電気エネルギー、化学エネルギー、熱エネルギー、原子力エネルギー、光のエネルギー

 「エネルギー」の存在をはじめて認識したのは17世紀イタリアの物理学者ガリレイ。彼は位置エネルギーと運動エネルギーについての実験を積み重ね、この概念に到達した。彼の得た結論は、閉じた系の中では、これらの力学的エネルギーの総和が一定である、つまり、「力学的エネルギー保存の法則」である。
 熱エネルギーや化学エネルギーなど、力学的エネルギー以外のエネルギーを含めた形で、ガリレイの法則を拡大したのが、19世紀イギリスの物理学者ジュール。これが「エネルギー保存の法則」で、これによって「エネルギー」概念が確立した。
 「物質」概念がデカルトなどによってほぼ確立した後も、物体の運動などを研究する力学が成立するには、物質の基本的な量である「質量」概念の誕生を待たねばならなかった。「質量」という力学的概念がつくられるには、慣性の概念が生まれ、それが物質に固有の量と認識されること、質量と重量(重さ)の相違が明確になることが必要だった。これらの仕事はガリレイケプラーデカルトらによって少しずつ実現され、最後にニュートンがまとめ上げた。彼はこの「質量」を用いて、運動の法則と万有引力の法則を発見する。また、18世紀フランスの化学者ラボアジェは、「化学反応においては、反応前の物質の全質量と、反応後に生成した物質の全質量とは等しい」という、いわゆる質量保存の法則を見出した。

<「物質」と「エネルギー」の等価性>
 物質とエネルギーが基本的に同じものであり、相互に変換可能ということは、20世紀の物理学がもたらした最大の発見である。化学反応によってもエネルギーの出入りはあるが、それは関与する物質の質量に比べれば僅かであるため、質量の変化として観測されるほどではなかった。しかし、原子核の崩壊や変換、核反応などに際しては、化学反応よりはるかに大きなエネルギーが放出される。これが核エネルギーや原子エネルギーである。
 アインシュタイン特殊相対性理論(1905)は、物質(の質量)とエネルギーとが等価であることを定量的につきとめた。この関係を記述したのが、E=mc2Eはエネルギー、mは物質の質量、c光速度である。

<「情報」概念の成立>
 通信の量や正確さをはじめて理論化したのはアメリカの電気工学者クロード・シャノンである。彼の情報通信理論によって、「情報を定量的に測る」ことが可能になった。シャノンによる「情報量」の基本単位が「ビット(bit)」。
 シャノンはアメリカの電気工学者、数学者で、情報理論創始者。1941 年にベル・テレフォン研究所に入り、第二次世界大戦中は通信の雑音や暗号解読などの研究に従事。1948 年シャノンは「通信の数学的理論(A Mathematical Theory of Communication)」 と題する長大な論文を研究所の雑誌に発表した。この論文は、情報を数量的に扱う方法を考察して「情報量」の定義を与え、この概念を用いて通信の基本問題を論じ、情報伝達の諸問題がどのように理論的に取り扱われるかを明らかにした。彼は情報伝送における通信系のモデルを提示、次に「情報源を確率過程として」とらえ、その確率分布に関して統計熱力学と同じ形の「エントロピー関数」を導入し、これによって情報量を定義した。

<機械と生物の共通性>
 情報通信理論の研究から着手して、生物個体の行動と通信機械の動作の平行性、同型性などに気づき、情報・通信に関わる一連の問題が本質的に一つの統一理論で扱いうることを見抜いたのが、アメリカの数学者ウィーナー。この統一理論、あるいはそれを研究する学問は「サイバネティックス」と呼ばれた。サイバネティックスは、その後の情報学のすべてを支える基盤となっている。自然発生的に生まれた「情報」の概念は、シャノンとウィーナーによって明確な定義が与えられたのである。