たかが名前、されど名前

 人が言葉に関わるゆえに、言葉は混乱するが、それが言葉の宿命。最近のコロナ禍では実効再生産数R(=(1-e)R0)が注目され、R0とRでは人のかかわり方が随分と異なる。基本再生産数R0は対象としての人のもつ値で、ヨーロッパの第一波での値は2.5。私たちが自粛によってその値を下げて、流行を押さえ込むには1以下にする必要があり、(1-e)R0<1から、0.6<eで、それゆえ、eが0.6より大きな0.8なら確実であるから、8割自粛。このRの値は行為主体としての人のもつ値で、私たちが変えることのできる値。

 いきなり面倒な話となったが、人が関わる命名や同定はその典型例として長い歴史をもっている。今日の名前はホザキマンテマ、シロバナマンテマ、そしてマンテマ。5月5日にシロバナマンテマを挙げ、「マンテマの一番大きな特徴は花の色で、赤い花を白で縁取りしているのに対し、シロバナマンテマは白かピンク色で、地味である。花弁の幅もシロバナマンテマの方が細い。」と述べた。マンテマとシロバナマンテマとなれば、マンテマが基本で、白色の花をつけるのがシロバナマンテマと誰もが推測するが、実はシロバナマンテマが基本種で、しかもその花の色はピンク(画像)。これでは人の命名が雑音でしかない。

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シロバナマンテマ

 最近の癖で道端ばかり見て歩いていると見つかったのが小さな白い花。文字通りのシロバナマンテマかと思ったのだが、調べ出すとホザキ(穂咲)マンテマという別の種が見つかる。江戸時代に、暗赤色で縁の白い5弁の花をつけるマンテマが観賞用に持ちこまれ、後に逸出し、野生化。なぜ「マンテマ」という名前になったかは不明。

 これに対してホザキマンテマは上の二種とは別種。ホザキマンテマが最初に採集されたのは1950年の北海道。今では日本中に広く分布している比較的新しい帰化植物ホザキマンテマの花の色は白色でシロバナマンテマに似ているが、ホザキマンテマの花弁は深く切れ込んで、10弁の花に見える。

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シロバナマンテマ?

 そこで私の見つけた白い花の植物は何かということになるが、切れ込みがあることからホザキマンテマらしいと推定できるが、花弁の切れ込みは僅かで、シロバナマンテマとほぼ同じ。人である私が花の同定に関わることが、後に混乱を引き起こすことから、対象としての私と行動する(同定する)私の基本的な違いをまずは名前の同定の場面で見出すことになる。そこで私が出す判断は「わからない」という混乱を起こさない一手で、さらに調べるしかない。