東京はどうなる?

 PCR検査は相変わらず議論が続いている。新型コロナウイルスに対する検査には、このPCR検査に加えて、抗体検査(血清検査)がある。PCR検査は鼻腔や喉を綿棒でこすって採取した粘液を使ってウイルスの有無を検査する。粘液の採取は専門家が行うが、感染の危険を伴う。これに対して抗体検査は指などから少量の血液を採取する。採血なので感染の危険は少ない。PCR検査は、現在体内にウイルスがあるかどうかを調べる。このため、今この瞬間に他人に感染すかどうかがわかる。これに対して、抗体検査は、症状が発生してから数日しないと陽性にならず、症状がない場合であっても感染すれば陽性になるので、過去にかかったかどうかがわかる。

 まず、抗体検査の重要性は新型コロナウイルスに過去に感染したかどうかがわかること。次に、新型コロナウイルスに感染したことがわかれば、うつす心配もうつされる心配もなくなり、仕事に復帰できる。感染者との接触の多い医療関係者や介護関係者には大いに助かる。最後に、この検査の普及により、国民のどの程度の割合が感染しているかがわかる。信頼できる抗体検査ができれば、コロナの正体を知ることができるようになる。

 抗体検査には課題も多い。まず、新型コロナウイルスにいったん感染したら免疫ができて当面は感染しなくなると言えるかどうかわからない。これは過去の感染症の経験に基づいているだけで、新型コロナウイルスについての証明はまだない。次は抗体検査がどの程度信頼できるか、その精度がよくわからないこと。その他、社会の混乱を招くことが幾つも考えられるが、今はそんな時期ではなさそうだ。

 日経の電子版に西浦教授の東京についての感染数についての予測記事が掲載されている(「欧米に近い外出制限を」北大教授、感染者試算で提言、4月3日)。西浦教授は数理モデルを使って解析する専門家で、専門家会議のメンバー。その予測によれば、何も対策を講じなければ東京都の感染者数は急増し、1日あたり数千人を超えてさらに増加する。一方、8割程度活動を減らすことができれば、10日~2週間後に1日数千人をピークに減少させることができる。西浦教授によれば、今の東京は感染の爆発が始まった可能性があり、外出の自粛ではなく、より強い外出制限が必要。ニューヨーク市では東京都より2週間早く感染が拡大し、1日100人を超えた2日後に1千人、5日後に2千人、さらに10日後に4千人を突破し、爆発的に感染者が増えている。遅くとも来週前半までには「自粛要請」より強い「外出制限」を出す必要がある。

 ヨーロッパの諸国は自国で爆発的な流行が起こるとは考えていなかった。その例がイギリスだが、当初のウイルスへの自由放任政策は直ぐに撤回された。さらに、アメリカ。カリフォルニア州ニューヨーク州との数日の非常事態宣言発出の違いが、今では10倍もの死者数の違いになっている。オーバーシュートがいつ起こるかの見極めは素人の安倍首相にはできない。アベノミクスがどうのこうで非常事態宣言が遅れることは失政そのもの。政治家の勘や皮算用に頼らず、専門家の意見に素直に従うべきである。

 クラスター潰しの後の日本の対策は何か。行動変容の中の人と人の接触の部分だろう。できるだけ孤立し、接触しないこと、引き籠りがウイルス対策には理想。あらゆる場面で社会距離を保つことの要請ではなく、命令によって、暫くは個人と個人の接触を断つことであり、孤立化という孤独を経験することである。されど、人間は動物、動き、交わるのが好きであり、それを停止するのは一時的であれ、人の心理を巻き込んだ壮大な社会実験でもある。