構造をもったパンジー集団

 スミレ科のスミレ属(Viola)にはスミレ、パンジービオラなど多くの種が含まれる。パンジービオラは、ヨーロッパに自生する野生種から育種され、かつては大輪のものをパンジー、小輪で株立ちになるものをビオラと呼んで区別していたが、複雑に交雑された園芸品種が登場し、区別できなくなっている。また、現在は秋から春まで長期間咲く品種が増え、冬のガーデンに不可欠の存在になっている。

 パンジーはフランス語の「パンセ(考える)」に対応し、つぼみが下を向く形が、人が頭を垂れて、思考する姿に似ているところから命名された。フランスでは、野生のViola tricolorのことを、古くからパンセと呼んでいたが、私など古い世代は和名の「三色スミレ」という呼び方の方がしっくりする。

 フランスの人類学者クロード・レヴィ=ストロースの『La Pensée sauvage(野生の思考)』(1962年)というタイトルを見て、なぜ思考(Pensée)に「野卑な」あるいは「野蛮な」という形容詞がついているのか、と大学生の私は訝しく思ったのを今でも憶えている。実際、英訳のタイトル『The Wild Mind』は、直訳すれば「野蛮な心」。もちろん、レヴィ=ストロースは表紙に野生の三色スミレの絵を使うことで、『La Pensée sauvage』に「野生の三色すみれ」という意味があり、「野生の思考」という意味もある、という洒落た仕掛けを置いたのである。そして、彼は未開社会にも秩序や構造をもった普遍的な「野生の思考」が存在していることを解き明かし、西洋中心主義の見直しを提唱。人間は見えない構造の中で動かされているという構造主義を、人間が主体的に歴史を作ってゆくというサルトル実存主義に対峙させ、「歴史」に対して「構造」の優位を主張した。三色すみれによって野生の思考の構造を象徴したのだとすれば、一枝の三色すみれより、構造的に配置された三色すみれの方が適しているのかも知れない(画像)。

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