地震・雷・火事・親父

 自然災害の最後に「親父」が来ていて、親父の怖さは地震、雷、火事に匹敵するというのが普通の解釈だが、おやじは、オオヤマジ(大きい風=台風)、あるいはヤマジ(山嵐=台風)がなまったという説もある。すると、「地震・雷・火事・台風」ということになる。今の日本を考えると、地震はいつ来てもおかしくなく、雷や台風も温暖化に伴って毎年強烈になっている。これらは自然災害でも、火事は人災がほとんどというのが通念。世界中で山火事が頻発し、温暖化に拍車をかけている。そこでは自然災害と人災の区別がつかないほど、地球と人の両方が同じ病気に罹って高熱を発しているように見える。

 

 世界各地で森林火災が年々増加し、その規模も大きくなっているが、その理由は地球温暖化に関係している。夏の温度が上昇する、雪解けの時期が早まる、空気が乾燥する、といった森林火災が起こりやすい環境を地球温暖化がつくり出しているのだ。また、気温の上昇によって、森林火災が起きやすい時期が今までよりも長くなり、以前より焼失面積が広がっている。地球温暖化の影響が特に著しいのが北方林。北方林は北米とユーラシア大陸の亜寒帯にある森林帯で、地球表面にある炭素の約30%を貯蔵。北方林は大気中の炭素を土壌や樹木に貯蔵することによって、気候の調節に重大な役割を担ってきた。大規模な森林火災が頻繁に発生すれば、炭素を貯蔵する北方林が、逆に大規模なCO2の排出源になってしまう。

 NASAの統計によると、多い年で年間約5000万haの森林が消失。本来、CO₂の減少に大きく貢献するはずの森林が、火災によってCO₂増加の原因になっている。スペイン北東部カタルーニャ地方では6月、過去20年で最悪の山火事に見舞われ、6500ヘクタールが焼失。ポルトガル中部でも、7月下旬、消防員800人を動員する山火事が発生し、8500ヘクタールが破壊された。欧州委員会によると、ヨーロッパでは、昨年1年間で合計120万ヘクタールが焼失。過去30年間で最も被害が多いのはポルトガルで、国土面積の39%が消滅、スペインが24%、イタリアが18%、ギリシャが13%。山火事が起きる大きな原因は、過疎化による放棄地の増加である。

 別の観点は世界自然保護基金WWF)の報告書にある。それによれば、山火事の4%が自然発火、96%は人間による意図的な放火で、その原因は何十年にもわたって解決されない村落の社会・経済闘争。猟師の狩猟範囲を狭めたり、他人の畑面積を減らす目的であったりなど、人間同士のいがみ合いが山火事の発端になっている。

 山火事の規模と被害が増大している理由は色々あるが、最大の要因は人と地球の関係の変化。都市の中心部から火災の起きやすい郊外へと移り住む人々が増え、特に米国ではカリフォルニア州テキサス州フロリダ州でその傾向が強い。米国西部では、数十年間にわたり野焼きが禁じられていたことも、現在山火事が激化する一因となっている。世界的に見れば、焼畑が耕地を作る目的で大規模化している。インドネシアなどでは、パーム油のプランテーションを行うために森林が燃やされている。

 南米のアマゾンは熱帯雨林であり、カリフォルニアの乾燥した山林とは違って、そこで火災が起きても手に負えなくなるような事態はまずないと言われてきた。だが、その異常事態が現実に目の前で起きている。原因はもちろん人間。消火が不可能なほどの大規模な火災を招いたのは森林伐採で、その背後には恐るべき事実がある。1970年代からこれまでに、アマゾンの熱帯雨林の面積は伐採によって約20パーセント減少した。これはカリフォルニア州の2倍の広さ。ただ、問題は単純な森林伐採ではなく、熱帯雨林と人間が住む土地との境界部分で行われている農業にある。人は森を切り開いて畑や道路をつくる。これが進めば、農地や牧草地に囲まれた熱帯雨林は、いくつもの小さな島のように分割され、それぞれが孤立化してしまう。

 これまでは、こうした孤立化した熱帯雨林は単なるアマゾンのミニチュア版になるだけだと考えられていた。だが、アマゾンの一部を周囲から切り離した場合、話はそれほど単純ではなくなる。島のように孤立した熱帯雨林では、動物たちは一定のエリアに閉じ込められてしまう。鳥も密集したアマゾンの環境に合わせて進化しており、捕食者に狙われる危険の高い何もない空を飛ぶことを避けようとする傾向がある。一方で、熱帯雨林の周縁部では環境が大きく変化する。木々の生い茂るアマゾンの奥地は暗く湿度が高いが、農地などと隣接する端の部分では湿度が大幅に低下し、気温も急上昇する。湿度が下がって菌類が減ると、落ち葉などの分解が進まなくなり、残されたものが乾燥して枯れ葉となって火災が燃え広がりやすい環境が生まれる。周縁部では樹木などの植生も変わってくる。そして、この空間に新しい植物が侵入してくる。具体的には樹木の密生の度合いが低くなり、炭素の蓄積量も減少する。こうなると生態系が変化し、植物の在来種が死滅する。

 アマゾンで行われている熱帯雨林の破壊は、組織的でとどまるところを知らない。火災では燃焼の過程でCO2が生じるだけでなく、森林が失われればそこに溜め込まれていたCO2が大気中に放出される。そして、熱帯雨林が失われれば、火災が起きていないときでも地域全体で見て温室効果ガスの排出源になってしまう。熱帯の河川や湖には人間と同じようにCO2を出す生物がたくさんいて、熱帯雨林がなければCO2を閉じ込めておくことはできない。アマゾンの森林火災はこのような観点から、将来的に地球規模の大惨事につながる。