白い花

 杓子定規に定義すれば、白色は全ての色の可視光線が乱反射されたときに、その物体の表面を見た人間が知覚する色です。また、無彩色の白色は、人の網膜の3種類の錐体のすべてが「対等的、均質的」に強く刺激された場合に感じる色です。それゆえ、すべての波長の可視光線を「対等的、均質的」に含んだ光は無彩色的に見え(黒や灰色)、それが強く反射すると、白色に見え、その光が白色光と呼ばれるのです。

 人間の目に白く見えるためだけなら、赤、緑、青の三つの光を適切な比率で混合すれば、白色は実現できます。実際、カラーTVのブラウン管の白色はそのようにしてつくられています。物体がすべての波長の可視光線をほぼ100%乱反射するとき、その物体は白く見えるのですが、発色の観点からは、白色は他の色と著しく異なります。一般の色材は白色光の中の特定波長を吸収し、残りの波長領域が目に入って色として感じられるのに対し、白の色材は特定波長を吸収しないために白色にみえるのです。

 繰り返しになりますが、私たちに物が見えるのは、物に光が当たり、その光が反射して、それが私たちの目に入ってくるからです。色が見えるのは、その反射する光の波長が、色によって違うからです。ところが、白色は他の色の光と違い、すべての波長を反射したときに見える色だと述べました。したがって、雪が白く見えるのは、雪の粒が小さいために、色々な波長の光をあちこちに乱反射して、それらの色がすべて混ざり合うからだということになります。空にうかぶ雲が白く見えるのも、これと同じ理由なのです。

 白い花にはアントシアニンやカロテノイドのような赤や黄色の色素は含まれていません。また、白色の色素が含まれているわけでもありません。白く見えるのは、花弁に含まれている小さな空気の泡(気泡)が光を反射するためです。白い花にもフラボノイドと呼ばれる「無色」の色素が含まれています。フラボノイドは可視領域の光をすべて吸収してしまうので人間には無色に見えますが、紫外領域の光を反射するので昆虫の目には色がついてみえます。人間と違って、昆虫は可視領域だけでなく、紫外領域の波長の光も色として認識できるからです。花粉を運んでくれる昆虫に認識されないと子孫を残すことができず、やがて淘汰されてしまうので、自然界にはフラボノイドを含む色素化合物を全く蓄積しておらず、それゆえ、虫にとっても白く見える純白な花はまずありません。

 このことを少し詳しく考えてみましょう。植物色素は文字通り多彩な多様性を植物に与えていますが、花の色素の主な成分はフラボノイドです。植物には現在までに4500種類以上のフラボノイドが見出されていますが、花の色だけに限らず、フラボノイドは多くの機能をもっています。フラボノイドは植物の全ての組織に存在し、細胞の中では、主に液胞に分布しています。白いキク、ユリなどの花は白色に見えますが、これらの花にもフラボノイドが含まれています。これらに含まれているフラボノイドは可視光を吸収しませんが、紫外光は吸収します。ヒトの目は紫外光は感ずることはできないため、白い花の細胞にあるフラボノイドは私たちには無色です。でも、花の色は昆虫を誘引する大切なもので、これによって、昆虫は蜜を見つけやすく、また植物は色と蜜によって昆虫を誘引し花粉を運んでもらって完全に受精できるようにしているのです。チョウの目は私たちには見えない紫外光を感ずることができるため、私たちにとっては感じることのできない無色のフラボノイドでもチョウを誘引することができるのです。

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