童謡「赤とんぼ」について

 三木露風作詞の「赤とんぼ」について二つ気になることがあります。
 最初は露風の「赤とんぼ」の歌詞。両親の離婚で祖父母に引き取られ、寂しい子供時代を過ごした露風の気持ち、子供心が浮かび上がり、妙に迫ってくる歌詞なのです。

夕焼け小焼けの 赤とんぼ 負われて見たのは いつの日か
山の畑の 桑の実を 小かごに摘んだは まぼろし
十五でねえやは 嫁に行き お里の便りも 絶え果てた
夕焼け小焼けの 赤とんぼ とまっているよ 竿の先

 姐やに背負われ、赤とんぼを見て、桑の実を摘んだ子供の頃が思い出される。だが、姐やが嫁に行き、便りも来なくなってしまった。そんな子供時代と同じように、今でも赤とんぼが竿にとまっている。こんな意味だとすれば、「赤とんぼ」は童謡ではなく、悲しい抒情詩と言った方がいいのかも知れません。

 次は「赤とんぼ」という名前。赤とんぼという名前のトンボはおらず、広い意味では赤みがかった色のトンボすべてを指す俗称です。狭くすれば、トンボ目トンボ科アカネ属に属するトンボの総称で、さらに狭くすれば、その中でもアキアカネのみを指す、ということになり、指示対象は実に様々です。「赤とんぼ」の歌のトンボは何かが議論され、アキアカネがふさわしいとなったのですが、、露風の故郷兵庫県龍野では、アキアカネよりもウスバキトンボが一般的で、秋には群れをなして飛んでいるそうです。これも西日本では赤とんぼと言われ、これが現在の結論になっているようです。
 ひょっとすると歌詞の最初の「赤とんぼ」と最後の「赤とんぼ」は違っていて、最初はウスバキトンボ、最後がアキアカネかも知れません。露風は旧制中学を中退し、早稲田、慶應義塾で学び、その後は東京で活動していますから、東京で大人の彼が見た赤とんぼはアキアカネの可能性が高いと思われます。でも、「赤とんぼ」の歌詞は、大正10(1921)年、露風32歳のとき、北海道のトラピスト修道院で作られました。アキアカネもウスバキトンボも北海道に棲息していましたから、ひょっとすると両方ともアキアカネだったかも知れません。