Supertask:小噺

 落とし話は小噺、小話、小咄と書かれるが、これらはいずれも近代に入ってからの呼称。そんな小噺の格好の例がHilbertの「無限ホテル(正確にはHilbert’s Paradox of the Grand Hotel)」。無限(infinite)集合を認めると、有限(finite)集合の場合と全く違った奇妙な事態が物理世界で起こることを示すパラドックスを述べた小噺。
 客室が無限にあるホテルを仮定。もし客室数が有限なら、「満室である」と「もう1人も泊められない」とは同値であり、常識である。だが、客室数が無限になると、同値ではなくなる。つまり、非常識になる。無限ホテルが満室だとしよう。客室数に1, 2, 3, … と番号を付けておく。客が1人来たら、1号室にいた客を2号室へ、2号室の客を3号室へ、3号室の客を4号室へ、…、n 号室の客を n + 1 号室へ、…と順番に移す。客室は無限にあるから、新たな客は客を移動させて、空いた1号室に泊めればよい。こうして、新たな客は1人どころか、何人でもよいことになる。だから、「もう1人も泊められない」は誤りで、「満室である」とは同値ではない。これが無限場合の常識である。有限の場合の常識は無限になると非常識、無限の場合の常識は有限では非常識。
 現実の有限ホテルでは、奇数号室の数は全室数より少ないが、無限ホテルではそうではない。数学的には、全室からなる集合の基数(個数)は、その真部分集合である奇数号室すべての集合の基数と等しい。これこそ無限集合の特徴であり、こんなことは私たちの物理世界ではあり得ない。

*What is known as "Hilbert's hotel" is a story of an hotel with infinitely many rooms that illustrates the bizarre consequences of assuming an infinity of objects or events in the world. For a long time it has remained unknown whether David Hilbert actually proposed this thought experiment, or it was merely a piece of mathematical folklore. It turns out that Hilbert introduced his hotel in a lecture of January 1924. The counter-intuitive hotel only became known in 1947, when George Gamow described it in his book.