人口問題(2)

 次の(A)、(B)、(C)の人口に関する説明を読み比べ、何が共通しているか、何が異なっているか考えてみてほしい。それは、人口問題に関して「視点、観点が違う」とはどのようなことなのかから始まり、人口問題の泥沼のような幅の広さ、深さについて改めて考え直すきっかけになるのではないか。

(A)
 地球の人口は、200年前は10億人、100年前は16億人だった。それが今では65億人を越えている。世界の人口はこれからも増え続け、2050年には90億人になるといわれている。人口が増えているのは、アジア、アフリカ、南アメリカなどの開発途上国である。人口が増えれば、それだけ食べ物が必要になる。そのために、森林を切り開き、田畑や牧場をつくらなければならない。やがてそれらの土地は荒れて、ついには砂漠になってしまう。家を建てたり、燃料にしたりするため木を切り、石油や石炭を掘らなければならない。作物を育てるには肥料や農薬が必要だが、農薬や肥料は川、海、地下水を汚染する。人口が増えると、自動車が増え、二酸化炭素が増え、地球温暖化は進み、空気が汚れる。二酸化炭素を吸収する森は減り、二酸化炭素が増える。人口が増えると地球環境に負担をかけ、様々な問題が起こるだけでなく、世界には食べ物が足りず、飢えている人が8億人もいる。

(B)
 ダーウィン以来の問いである、「生物・非生物学的要因による自然淘汰によって、異なる環境でどのような遺伝子が選択され、進化が起きてきたのか?」に直接答えることが可能になりつつある。これには集団生物学の確立がある。これまで集団生物学は、個体群生態学と集団遺伝学に分かれて発展してきた。
 ゾウリムシを理想的な環境をもつビーカーに入れ、個体数の増加を調べてみたとしよう。ゾウリムシの個体数は、最初のうちは指数関数的に増えていく。ゾウリムシは二分裂で増えていくので、ある一定時間に増加した数をB、死亡した数をDとすると、時間をtとし、個体群の数をNとすると、次の式が成り立つ。ΔN/Δt=B-D。普通は出生率bや死亡率dを導入して、次のように書くことが多い。ΔN/Δt=bN-dN。b-dは出生率と死亡率の差で、これをrで置き換えて増加率とすると上の式はさらに簡単になり、ΔN/Δt=rN となる。この式を微分式で表わすと、dN /dt=rN。
 今まではゾウリムシにとって理想的な環境を考えてきた。つまり、それぞれの個体は十分な栄養を得られ、増殖するのに十分な空間が与えられていると仮定していた。このような時には、増加率は最大になるはずなので、rはrmaxとすると、dN /dt=rmax N。このような増加の仕方が指数関数的個体群成長(exponential population growth)。Nが大きいと個体群の増加は大きくなることがわかる。
 ゾウリムシは無限に増えていくことはできない。ビーカーの大きさがゾウリムシの収容する数を規定するからである。環境の収容力(K)を導入すと、dN/dt=rmax N(1-N/K)となる。例えば、環境の収容力を1500としてrmaxを1.0とすると、ロジスティック個体群成長(logistic population growth)モデルとなる。

(C)
 わが国は超高齢・人口減少社会に突入した。日本の総人口は2008年前後をピークとして減少に転じるとともに、高齢化率(65歳以上人口の総人口に占める割合)は2007年に21%を超えた。人口減少・高齢化のピッチは今後ますます速まると見込まれている。近未来の日本は、これまでとは異質の社会を迎えるのである。その特徴を挙げてみよう。
 第1は、総人口の減少。日本の総人口は今後半世紀の間に約3分の2まで縮小する。また、2010年から2035年の減少幅(1,594万人)に比べ、2035年から2060年の減少幅(2,538万人)が大きい。実際、2040年以降は毎年100万人以上の規模で人口が減少すると見込まれている。これほど大規模な人口減少が生じるのはなぜか。その理由は、高齢化に伴い死亡者数が急増し、出生数が減少するからである。
 第2は、高齢者の増加である。老年人口は2010年の2,948万人から2035年には3,741万人に増加する。その後、老年人口は2042年の3,878万人をピークに減少傾向に転じるが、総人口の減少が進むため、2060年の高齢化率は39.9%まで上昇。また、老年人口の中でも75歳以上の後期高齢者の伸びが大きく、特に2010年から2035年にかけて1,419万人から1.6倍増の2,278万人となる。これは、「団塊の世代」が2024年には後期高齢者の仲間入りをすることが主因である。
 第3は、出生数の減少および年少人口の激減。年少人口の推移をみると、2010年の1,684万人に比べ、2035年には1,129万人と、ほぼ3分の2に減少し、2060年には791万人と半減以下となる。
 第4は、生産年齢人口の激減である。生産年齢人口は既に減少しているが、2010年の8,173万人に比べ2060年は4,418万人とほぼ半減する。
 第5は、老年人口の生産年齢人口に対する比率(老年従属人口指数)の急騰である。老年従属人口指数とは高齢者1人を現役何人で支えるかを表す指標であり、1985年は現役7人で1人の高齢者を支えていたのが、2010年に2.8人で1人、2035年には1.7人で1人まで急減し、2060年には1.3人で1人を支える社会となる。