ガラパゴス諸島、京都、そして妙高

 チャールズ・ダーウィンが訪れ、生物進化のデータを収集したことで有名なガラパゴス諸島。1978年に自然遺産第一号に指定されたガラパゴス諸島は、観光地化が進み、外来種の侵入で環境が悪化し、2007年危機遺産に登録された。エクアドル政府の必死の取り組みによって、2010年にリストから除外された。。
 ガラパゴス諸島は、太平洋上の赤道直下に位置し、エクアドルからは約1000km。冷たいペルー海流が通る。ガラパゴス諸島には淡水がなく、土地も痩せ、農業に不向き。そのため、開拓の対象にならず、豊かな自然が残った。ガラパゴスでは、エコツーリズムの代わりにマネージメントツーリズムという言葉が使われ、観光客の行動を管理することによって地域を保護しようとしてきた。入島する際には、観光客はレクチャーを受け、ガイドと共にガラパゴスを観光することになる。だが、地元のエクアドル住民がガラパゴスの自然をあまり顧みず、ナマコ密漁をめぐって政府と対立、ガラパゴス諸島への外来種の持ち込みなども次々起こった。観光客のコントロールには成功したが、エクアドル人のコントロールには失敗したのだった。
 観光客に対する適切な情報提供やガイド、さらにはコントロールは国立公園内では必要なことだが、そこで生活する住民に対しては、彼らへの配慮だけでなく、公園を存続させるための啓蒙や指導も不可欠。これがガラパゴス諸島危機遺産登録からの教訓。
 歴史を観光に使う典型例が京都。京都が観光都市であることを誰も疑わないが、なぜ京都は観光都市かと問えば、長い間日本の歴史の中心にあり、多くの歴史的、文化的な遺跡、建造物、芸術作品が残存し、日本文化のエッセンスが残っているからだと答えが返ってくる。歴史遺産と文化が観光の手段として使われ、今では世界中の人々を惹きつけている。
 ガラパゴス諸島と京都を比べて、観光を見直してみると、色んなことが見えてくる。自然と歴史という違ったものを手段にして人々を集めている。観光客の数は京都の方が圧倒的に多いだろうが、京都が危機遺産登録される危険は極めて少ない。ガラパゴス諸島の脆さは自然のもつ脆さであり、京都のもつ強さは歴史や文化のもつ強さである。物が壊れるようには、過去も文化も壊れない。だから、京都はガラパゴス諸島よりずっと強いのである。仏像も寺院も修復や改築ができるが、絶滅した生物種の復元はまだできない。歴史も文化も生き物ではないが、自然は限りなく生き物に近く、しかも多くの生き物を自ら抱え込んでいる。
 さて、我らが妙高ガラパゴス諸島と京都のいずれに近いのか。答えは明白で、妙高ガラパゴス諸島に近い。ガラパゴス諸島のように進化の証拠となる生き物で溢れている訳ではないが、ライチョウはじめ多くの貴重な生物のいる自然をもつのが妙高である。幸い妙高の自然の方がガラパゴスの自然より頑丈である。それでも、妙高は、その歴史や文化に比べると自然の比重が大きく、従って、その脆い自然の保護、保全が極めて重要なのである。妙高ガラパゴス諸島より強いが、京都よりずっと弱いのである。