外来生物(と外国人)

 「外国人」は生物学的な概念ではありませんが、「外来生物」も同じように生物学的な概念ではなく、私たちの生活世界の概念です。
 日本は国をつくる際に多くの外国人や外国の文化、思想の助けを借りました。大和朝廷が仏教を礎にして国をまとめ上げ、以後も仏教を利用して国を治めました。明治維新では多くのお雇い外国人を使って急速な近代化を図りました。既に「岡倉天心河鍋暁斎:異なる役割」で、お雇い外国人としてジョサイア・コンドルとアーネスト・フェノロサの二人を紹介しました。その後国際化はさらに進み、今では多くの外国人旅行者(特に中国と韓国)が日本を訪れています。
 外来生物もずいぶん増えました。外来生物のイネ(*)を中心にした農業が成立し、多くの外来の食料によって食生活は豊かになり、美しい草花を鑑賞することができるようになりました。食料となる生物は基本的に私たちがコントロールできるものです。遺伝子組み換えがどのような結果をもたらすかはっきりわかるとはまだ言えませんが、遺伝や交配の仕組みの基本はわかっています。ですから、その知識や技術に基づいて私たちは安心して食料を栽培・加工・貯蓄できると考えています。
 どのような結果がもたらされるか予測できる、見通しが立つ場合には積極的に外国人や外来生物を受け入れてきたのが私たちのこれまでの歴史です。しかし、このところ「生物多様性」(これは半分生物学的な概念)を破壊する恐れがあるとして外来生物がやり玉にあがる場合が増えています。特に、国立公園の場合は固有の生物を保護するという点から外来生物、なかでも特定外来生物については厳重に排除することになっています。オオハンゴンソウブラックバスはそのような特定外来生物です。
 ここで注意したいのはオオハンゴンソウブラックバスが最初から有害で、悪役ではないということです。私たちがそれらの生物について十分な知識をもち、その栽培や飼育をコントロールできるのであれば、他の外来生物と同じように扱うことができるのです。今のところはそれらの生態がよくわからず、コントロールもできないので、その地域に固有の生物を守るために移入を禁止するということになっています。これは外国人についてもよく似ています。犯罪者、犯罪経歴がある外国人、日本と国交のない国の住人の入国は禁止あるいは制限されています。
(*)イネはもともと野生で、それが変化して、栽培できるようになりました。日本に入ってきた道すじは、
揚子江中流から下流の地域⇒中国大陸を北上⇒山東半島朝鮮半島⇒北九州
②中国大陸をもっともっと北上⇒遼東半島朝鮮半島⇒日本
揚子江下流の地域⇒西九州
が考えられていて、どれが正しいかはまだわかっていません。日本の中では、一番古い田んぼは、縄文時代の終わり頃のものが発見されています。