隅田川の木杭

 環状2号線のうち、豊洲と築地を結ぶ地上区間が暫定開通した。旧築地市場跡地は、汐留・新橋方面の地下トンネル区間と、豊洲有明方面の地上区間とを結ぶ出入り口が設けられる予定だが、旧築地市場から豊洲市場への移転が遅れたことで、築地市場跡地に新大橋道路へ接続する暫定の迂回路を整備し、豊洲~築地間の地上区間を先行して開通した。東京オリンピックパラリンピック競技大会の選手村が設置される晴海地区を経由する。築地大橋は環状2号線隅田川を渡る橋梁。隅田川の最も下流にあり、平成27年度に完成した最も新しい橋で、頭上に横繋ぎ材の無い開放感がある鋼3径間連続中路式アーチ橋。

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 その築地大橋の傍に木杭が見える(画像)。木杭なのかどうかも実はわからなく、勝手に私が判断しただけなのだが…川辺は独特の風景をもっていて、山とも田圃とも違う。築地大橋を初めて渡る。歩きながらかつてどこかで見たような風景が心に浮かぶのだが、それが実際の風景とはまるで違っている。記憶だけが勝手に浮遊するかのように、隅田川の昔がモダンな隅田大橋を歩く私の意識の中で蘇ってくるようなのだ。とはいえ、かつての両国橋界隈の百本杭など私の記憶にはない筈なのだが、木杭が見える川辺の風景が浮かび上がり、それがテラスなどと呼ばれる隅田川の堤防とは違った記憶の風景なのだ。私の記憶の中では木杭の方がテラスの植栽より隅田川の風景にフィットする。だが、実際に江戸や昭和初期までの木杭を見たことはないのだから、正にデジャブである。

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 富士に似合うのが月見草だとすれば、大川に似合うのは木杭である。何か物寂しい風景が二つには共通していて、それら風景は共に美しい。月見草が咲き、大川の木杭の向こうに夕焼けの富士が見えるなら、江戸っ子は誰でも心が躍るのではないか。
 ところで、「百本杭」は隅田川両国駅側の岸が浸食されるのを防ぐために江戸時代に打ち込まれた多くの杭のこと。両国橋付近はとりわけ湾曲がきつく流れが急であったため、上流からの流れが強く当たる両国橋北側には、数多くの杭が打たれ、いつしか百本杭と呼ばれるようになった。この杭の防波堤が知識として原風景をつくり、それが新しい築地大橋の袂を下った辺りの杭の姿に重なったのが私のデジャブだったのだろう。