もう一つの頭の体操

 次の問いについて頭を捻ってみて下さい。
(問)点から線はつくれますか。また、線を分割していくと点になりますか。

(解答)この問は目新しいものではなく、参考文献を参照しなければわからないといった問でもありません。ノートや黒板に点を打ち、それを伸ばせば線が引かれて行きます。ですから、点から線がつくれます。また、線をどんどん分割して、切り刻んでいけば、最後はもう切ることができな点にまで達する筈だと想像できます。これは小学生でも考えつく、点と線についてのほぼ常識ではないでしょうか。でも、疑うべきは常識です。実際、YesかNoかの解答とその理由は次のように分かれてしまいます。

[解答1]
点には部分がなく、それゆえサイズがありません。サイズのない点をいくら集めても、サイズのある線が生まれるはずがありません。点からスタートする限り、サイズの生まれる原因や理由がどこにも見当たらないのです。ですから、「延長のないものから延長は生じない」、「何ものも理由なしに存在しない」といった形而上学の原理に従って、上の各問いについての答えはNoということになります。

[解答2]
区間[0,1]が0と1の間にある個々の点からできているように、実数の集合は個々の実数を要素に含んでいます。点から線ができ、線は点に分解できるのは、線が点の集合であり、点が線の要素であるからなのです。面や空間についても同様で、それゆえ、上の各問いについての答えはYesになります。

 [解答1]の真意は「0をいくら加えても0のままである(0 + 0 +…+ 0 +…= 0)」という命題を思い起こせばわかるでしょう。[解答2]は「サイズのない点を集めるとサイズ(長さ)のある線ができる」ことを納得できるかどうかが鍵となっています。

*ところで、0 + 0 +…+ 0 +…= 0は有意味な式、つまり言明でしょうか。…が左辺に2回も登場しています。…とは一体何でしょうか。…は0と+が交互に並ぶことの省略形だとしても、では何個並ぶというのでしょうか。恐らく、限りなく並ぶ、つまり無限に並ぶことを意図して…が使われているのでしょうが、そうなると、+という演算記号は有限個の0を加えることの記号であるという代数の基本に反することになります。

 さて、もっともらしく見える二つの解答を示されると、私たちはいずれの解答が正しいのか、そしていずれが常識的な考えとして認められている解答なのか迷い始めます。二つの正反対の解答を見て、常識が明瞭に理解され、共有されているのではないことを示す証拠だと思う人もいるでしょう。さらに、今の常識より古い常識がまだ残っているからだ、あるいは新しい考え方が侵入したからだと想像する人さえいるでしょう。いずれにしろ、現在の正解は[解答2]なのです。