オトコエシ

 オミナエシは細長い茎をもち、花が風にそよぐ様子はいかにも女性的で、女郎花(オミナエシ)の名にふさわしい花だと思いたいのだが、私にはどうしても芭蕉と同意見をもてないのである。オミナエシを詠った和歌は万葉集に14首、その後の古今和歌集にも17首ある。古今和歌集に「オミナエシ 秋の野風に うちなびき 心ひとつを 誰によすらむ」とあるように、女性へのときめきを歌った歌が多い。いつ頃から女郎花の漢字があてられたかは明確ではないが、古今和歌集に女郎花と書いてオミナエシと読ませ、源氏物語に「花といえば名こそあだなれ女郎花なべての露に乱れやはする」の記述がある。
 女郎花に対し、男郎花(オトコエシ)の名の花がある。それは白花ではあるが、同じ頃に同じような花を咲かせ、オミナエシと同じスイカズラ科のオミナエシ属の植物である。女郎花(オミナエシ)に似ていて、男性的であるので、男郎花(オトコエシ)と呼ばれると言う説が一般的だが、女郎花が先なのか男郎花が先なのかは明確ではなく、オミナエシ、オトコエシと呼ばれた名の由来もはっきりしていない。
 オミナエシは漢名で敗醤の名があり、乾燥させていると、醤油のくさったような臭いを発するのでこの名があるが、現代でも漢方の生薬として解熱、消炎、解毒に用いられる。 オミナエシもオトコエシもよく似た小さな花をつけるが、オミナエシはよく目立ち、多年草なので毎年同じ所に咲いて、お盆の花として重宝される。
 さて、男の女郎の花、つまりオトコオミナエシという、オミナエシを遥かに超える差別用語のような名前の植物がある。オミナエシとオトコエシの自然雑種である。全体はオトコエシに似ていて、花は小さく白色の花と淡黄色の花が混じる。残念ながら、私はまだこの男の女郎の実物を見たことがない。人はなぜ自分の都合や歪んだ見方を植物の名前に反映させようとするのか。その困った意図が植物誌を大いに偏向させてきたのは確かなようである。
 だが、真に重要なのは「女郎」でも「男女郎」でもなく、異なる生物種の間での交配という例外的な事例であることを忘れてはならない。

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オトコエシ

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オミナエシ

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オトコエシ

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オトコエシ