コロナの謎、日本の謎(2):解除前後の日本の状況

 6月に入り、経済活動が戻り出し、これまでの対策、今後の準備についての議論が活発になっている。元気がいいのは関西で、大坂の知事だけでなく、京大や神戸大の何人かの教授たちも賛否の声を荒げている。8割自粛など根拠なしの過剰反応に過ぎないというブラジル大統領に似た意見から、日本の不思議な状況をファクターXと呼んで追求することまで、様々な意見が百花繚乱。国の対策への批判も厳しい中で考えたいのは日本の状況。

 京都大学の上久保靖彦特定教授と吉備国際大学の高橋淳教授らの研究グループは「日本人には新型コロナウイルスの免疫があった」という説を発表。日本の死者数が少ないのは「日本人には新型コロナウイルスの免疫があったので、死者数を抑え込むことができた」というのだ。新型コロナウイルスにはS型、K型、G型の三つがあり、最初にS型が発生し、それがK型に変異し、武漢でさらに変異した感染力の強い型がG型。今年インフルエンザ感染者が少なかったのは日本人が早期に新型コロナウイルスに感染していたため、というのが彼らの見解。インフルエンザに感染すると、新型コロナウイルスに感染しなくなる。逆もしかりで、これがウイルス干渉。S型は弱毒ウイルスなので、インフルエンザに対するウイルス干渉も弱かった。S型から変異したK型は無症候性から軽症で、中国では感知されず蔓延したが、それが日本にも蔓延。武漢でさらに変異した武漢G型は、さらに重症の肺炎を起こすため、1月23日に武漢は閉鎖された。一方、上海で変異したG型は、最初にイタリアに広がり、その後ヨーロッパ全体と米国で流行した。日本人はその前から新型コロナに感染していて、武漢で猛威をふるったG型が日本に到来する前に、新型コロナウイルスの免疫ができていた。だが、G型に集団免疫が成立するには、集団の80.9%の人が感染して免疫を持たなくてはならない。一方、K型で集団免疫が成立した段階では集団54.5%の感染で大丈夫だった。この差80.9-54.5=26.4%に新たに感染が起こる。K型で集団免疫が成立していたが、日本に流行が起こったのはこのため。

 では、日本より致死率が低い台湾や韓国にも同じ議論が成り立つのか。現在、患者数が一時的に減少したに過ぎず、夏になると、気候により流行が下火になると期待する向きもあるが,インドやフィリピンの流行状況を見ると、インフルエンザほどの季節性は望めない。日本の死亡者の絶対数が欧米に比べて少ないから、日本の対策は成功したという意見があるが、アジア諸国は欧米諸国に比べて、感染者数も死亡者数も圧倒的に少ない。アジア諸国間で人口10万人当たりに換算した死亡者数を比較すると、日本はフィリピンに次いで2番目に多いのだ。

 1918年のスペインかぜのアジア諸国の致死率は欧米よりも高く、アジア全体で1900万から3300万人、欧州全体で230万人と報告されている。1918年当時は,アジアに比べて欧州諸国が社会経済的に圧倒的に優位だったためだと説明されてきた。社会経済的な格差は大幅に改善されたとはいえ、今でもヨーロッパが優位である。にもかかわらず、今回アジア諸国の死亡者数が少なく、その理由は説明がつかない。

 日本の死亡者数はアジアでワースト2。人口10万人当たりの死亡者数をアジア諸国で比べると、1位はフィリピン、2位が日本であり、日本は最も多くの死亡者が発生した国の一つ。最も死亡者が少ないのが台湾で、日本とは比較ができないほどに少ない。

 たったこれだけでも、日本の政策がうまくいったかどうか、日本の志望者が少ないかどうかについてより慎重に考えるべきことは明らかだろう。