和子さんの小さな講義

 基本的な事柄の二つを考えてみましょう。まずは名前のこと。「新型コロナウイルス」は「妙高の新生児」と同じようなもので、きちんとした名前とは言えません。正式名はSARS-CoV-2、そして、そのウイルスが引き起こす「新形コロナウイルス感染症」がCOVID-19。つまらない区別ですが、知っておくと便利で、恥をかきません。もう一つ、ワクチンについて。「生ワクチン」は、生きた病原体のウイルスや細菌が持っている病原性を弱めたもの。これを接種すると、その病気に自然にかかった状態とほぼ同じ免疫力がつきます。「不活化ワクチン」は、病原性をなくした細菌やウイルスの一部を使います。COVID-19のワクチンはまだありません。

 さて、今回の主題は下のグラフ(一部加筆したグラフは、矢原徹一「専門家の対策に根拠あり、新型コロナは制圧できる」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59778))についてです。

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 非感染者数(susceptible)は感染拡大とともに減っていきます(図の右下がりの曲線)。一方で、回復者数(recovered)は時間とともに増えていきます(図の右上がりの曲線)。感染者数(infectious)は、非感染者数が多い感染拡大初期には増えますが、やがて非感染者数が減るため、つまりウイルスが感染する相手が減るために、ピークを境に減り始めます。感染者数のグラフは正規分布型、釣鐘型の曲線を描き、やがて感染の流行は収束します。どうしてこのような形になるのかは非感染者数と回復者数の二つのグラフの合計であることからわかります。感染はネズミ算式に、あるいは等比数列風に広まっていきますが、どうして減り出すのかはこのグラフの合計からわかります。また、オレンジのグラフが日本を含めた多くの国で目指している方策だと繰り返し言われてきました。

 未感染の50名のクラスの一人が感染し、次から次と感染が始まったとしましょう。その増え方はネズミ算式に、等比数列的に増えますが、クラスには次第に感染者が増え、感染させる人を見つけるのが難しくなって行きます。それに応じて感染させる人数は減っていき、終には免疫をもつ人ばかりになって感染させることができなくなっていきます。この感染数の変化が非感染者数と回復者数の合計です。最初はどんどん感染させていくのですが、クラスは50人しかいませんから、全員が感染し、免疫を持つなら、それ以上感染できず、流行は終わります。

 次は、オレンジのグラフの意味です。多くの国が目指すのがオレンジのグラフ。50人のクラスに障壁を置き、そこに10人を封じ込めると、その10人は感染せず、感染可能なのは40名に減ります。この40名に何もしなければ、前と同じように感染が起こり、そのグラフの頂上は50名の場合より低くなります。さらに、流行が済んだところで、10名の障壁を取り除くと、新たに感染が始まります。その二つのグラフをまとめたのがオレンジのグラフで、山は低くなり、頂上の時点は遅くなります。 

 とても直感的で、いい加減とも思える説明ですが、これなら小学生にもわかり、しかも、実は微分方程式で書かれるモデルのエッセンスそのものなのです。50人のクラスの人数が変化し、他から流入したり、流出したりする場合、障壁を色々変えた場合、ワクチンの接種率を色々変えた場合等々、条件を色々変えることによって、現実の状態に近いモデルを考えることができるのです。