和夫君と和子さんの共同レポート

 二人でそれぞれのレポートを読み、現状への認識と対策を次のようにまとめた。

 Global Virome Projectはスケールが大きい計画である。Science(Vol 359, Issue 6378, 23, Feb., 2018)の論文によれば、ウイルスには111の「科」があり、うち25系統はヒトに感染するか、感染の可能性がある。だが、この25系統に属するウイルスがすべて特定されているわけではなく、実際には発見されてないものの数は約167万種ある。論文では、このうち人間が接触すると危険なウイルスの数はおよそ63万1,000種から82万7,000種に及ぶと推測し、この167万種をできるだけ多く特定し、人間にとって脅威となるウイルスについては詳細な分析を進めようというのがこの計画である。

 夢のような計画から現実に戻ろう。新型インフルエンザはずっと「新型」なままではない。流行を経て、免疫を持つ人が増えると、季節性インフルエンザとして周期的に流行する程度に落ち着く。これは「免疫を持つ人が多ければ多いほど、感染症が流行しにくくなる」ためである。この考え方による感染拡大の予防策が「集団免疫」。これは感染症の拡大防止のための重要な予防策である。基本再生産数R0で表される感染力でみれば、はしかやおたふくかぜのほうが断然高いが、ワクチン効果を含めた総合的な感染力でみると、効果が限定的なインフルエンザや、ワクチンがないSARS、MERS、そして今回の新型コロナウイルスの脅威が俄然高くなる。

 英国政府は、新形コロナウイルスに対して最も脆弱な人々だけを保護することを目的とした「緩和」政策から始めた。政府は、これにより発生が遅くなり、医療システムが機能し、一般住民が十分なレベルの集団免疫を獲得し、流行が終息すると期待していた。むろん、多くの批判とその後の展開から、今は「抑え込み」政策に変わっている。

 では、ここに登場する抑え込み(あるいは、抑制suppression)、緩和(mitigation)はどのようなものなのか、二人はそれについて調べてみた。緩和と抑え込みを対照的に比較すれば、「緩和策は新規コロナウイルスの拡散を遅らせることを目指し、抑え込み策は拡散を逆転させ、縮小して、終には終息させる」となる。
(1)抑え込み

 再生産数を減らすことが目的。Rを1未満にすれば、伝播が低いレベルになり,感染者数が減る。このアプローチの問題は、ワクチンが使えるようになるまでは,維持されねばならないことである。新型コロナウイルスの場合,ワクチンが使えるようになるまでまだ1年以上かかる。個人の自由や権利を制約し、都市や国全体を封鎖することも含む。

(2)緩和

 この場合は伝播を完全に邪魔することではなく、流行の速度や量を減らすことであり、Rの値は1を越えてもよい。例えば,2009年のパンデミックの時,ワクチンは重症化しやすい基礎疾患がある人を対象にしていた。ある程度集団免疫がつき、急速に患者数と伝播が低い水準に落ちる。

 抑え込みと緩和の差は程度の差であり、抑え込みを緩めて行けば緩和に変わるし、その逆もあり得る。一時的な抑え込みで成功すればするほど、集団免疫の蓄積が少なくなるため、ワクチン接種がない場合、後の流行が大きくなると予測される。緩和戦略と抑制戦略のそれぞれの効果を予測するための複雑なモデルを作成すると、どちらの戦略も何もしないよりもはるかに優れていることがわかる。今回のコロナウイルスの場合、抑制戦略の方が緩和戦略よりも死亡者数と救命救急ベッドの需要が大幅に少なくなる。効果的な抑制のための最小の方針は、家の隔離と学校の閉鎖とを組み合わせた人口全体の社会的距離である。だが、これは最小の抑え込みで、状況に応じて抑え込みのオンとオフを切り替える必要がある。指標となる数値が閾値を超えると、「オン」になり、おさまると「オフ」となる。これは地域レベルで考えるのが良いだろう。都道府県ごとの集中治療を必要とする人々の数に応じて抑制戦略の強度を変更することになる。
 効果的なワクチンや薬を手にすることができるまで抑制戦略を実施する必要があり、現時点では抑え込みが唯一の実行可能な戦略である。