中学2年生和夫君の家庭学習

 和夫君は毎日放送される新型コロナウイルスに関する感染者数の増加とその対策について耳に入ってくる事柄を考えながら、つまるところ今の私たちにできることは二つしかないとまとめました。一つは現状への対策、もう一つは治療手段の開発で、前者は現場での戦術が、後者は研究の戦略が求められ、政治の政策と科学の知識の違いがあるとまとめました。そして、和夫君の現状への対応は大人なら考えない単純明解なアイデアでした。

 感染した人が別の人にうつすのは、集団内に人を生む、誕生させるのと同じようなもので、これまで「基本再生産数(basic reproduction number)」と呼ばれてきました。これは R0という記号で表現されますが、ウイルスや細菌などに感受性をもつ集団で感染が発生したとき、一人の感染者が自分が感染して相手にうつす可能性がある期間に再生産する二次感染者の期待数です。これは人口学でいえば「純再生産率」のことで、私たちが出生率と呼ぶものの一つです。純再生産率は、女性が生涯に生む期待数ですから、ちょうど女性が一人だけ産むときには人口は単純再生産であって、一人より多く産めば拡大再生産です。それと同じで、R0は感染者が平均で何人にうつすかということです。

 初期の感染者が、二次感染、三次感染等々、を世代的に次々と再生産していくプロセスを考えますと、この R0 というのは世代的に見た感染者のサイズの公比に相当していて、等比級数的に変化します。ネズミが短期間の間に世代交代を繰り返し、その数を増やすことが例として使われてきたことを思い出してください。ですから、感染人口の各世代のサイズは R0 倍して子孫がふえていくことになります。すると、R0 が1より大きかったら正の成長率でウイルスや細菌が侵入してくることが直感的にわかります。感染者は人口で、人口は世代の和ですから、R0が1より大きいと世代のサイズが拡大再生産していきます。そのときには感染者人口の成長率が正になって流行が拡大していき、逆にR0が1より小さかったら、流行は自然に消滅します。R0 が1より大きければ流行が起きますが、1より小さければ流行は起きません。

 人口を減らすには出生率を下げればよいのと同じで、感染者数を減らすにはR0が1より小さければいいわけです。そのためには、感染者を見つけ出し、感染者を隔離し、新しい感染者を出さないことです。感染者を見出すには症状が目安になります。感染者が出たら、その人と接触した人を見つけ、感染しているかどうか調べ、感染していたら隔離する、その繰り返しによって、感染者をつぶしていくしかありません。むろん、その間に適切な治療によって陰性になる感染者を増やすことも感染者の減少に貢献します。要は集団から感染者を減らし、できれば零にすることです。そのためには満員電車をなくすことも感染者を減らす方策の一つです。

 和夫君のレポートはこれで終わりです。何とも素朴な話ですが、和夫君は自分の考えたことを素直に実行すること以外に王道はないと思っています。