COVID-19

2月29日

無知の強要

 何の根拠や理由も言わずに強いられる要請にすっかり慣れ、テレビや新聞の言うことしか聞こえてこず、藪の中の状態はこの情報社会にあって何とも不可解。理由に触れずに、イベントを中止し、学校を休校にすると言う。無知ゆえに人々は盲信するしか術はない。実施される対策の根拠を示すことなく、強要されても、無知ゆえに従うしかない、これまた何とも不合理。

 検査数が圧倒的に少なく、感染の実態(疫学的な統計結果)を誰も知らない。PCR検査が韓国並みに行われていたなら、韓国以上の感染者がいるかも知れないと多くの人が憶測しても、それとて無知ゆえに憶測でしかない。根拠のない意思決定を強いるのが政治の役割だとすれば、それはとても怖いこと。だが、それが現状。

 私たちは畢竟無知ゆえに経験則に頼って乗り切るしかないのか。私たちが精度の高い情報を得ていればいいのだが…少なくとも日本のマスコミは厚労省や医師会から生の情報をスクープするような冒険をしていない。だから、今の情報が正しいかどうかはほとんどが推測、憶測。正しい推測でも証拠がなければフェイクに過ぎない。そこに政治家の意図的な発言が重なるから、疑心暗鬼しか残らない。それでも、自分にできることしかできない、常識に従うしかないというほぼトートロジーの内容が庶民の態度となる。何とも歯痒いのだが…
*「医療現場が混乱するので、重症者に限る」といった暴言は真のレトリックを全く欠いたもの。医療現場が混乱しないために、具体的な症状を挙げて受診条件を丁寧に説明し、軽症、重症といった判断を市民にさせないことが真のレトリックであり、これは霞が関文学ではない。

 

3月2日

 コロナウイルスについてのWHO-中国の共同調査報告が発表された(報告書「Report of the WHO-China Joint Mission on Coronavirus Disease 2019(COVID-19)」はWebで読める)。内容を要約すると次のようである。

 2月20日時点で報告された55,924の検査室確認例の年齢の中央値は51歳であり、症例の大部分は30-69歳。報告された症例のうち、51.1%が男性、77.0%が湖北省、21.6%が農家または労働者。COVID-19は飛沫や媒介物を介して感染する。COVID-19の空中伝播は報告されていない。一部の患者の糞便から生存可能なウイルスが特定されている。中国では、COVID-19ウイルスの人から人への感染が主に家族内で発生している。広東省および四川省の1308例(報告された1836例のうち)を含む344クラスターのうち、ほとんどのクラスターは家族で発生している。現在、世帯伝染調査が進行中で、武漢では、1チームあたり最低5人、計1800人を超える疫学者のチームが1日に数万人の連絡先を追跡している。深圳市では、特定された2842人の密接な接触者全員が追跡され、2240人(72%)が医学的観察を完了し、88(2.8%)がCOVID-19に感染していることがわかった。広東の発熱外来では、COVID-19ウイルス陽性のサンプルの割合は、1月30日の0.47%だったピークから2月16日の0.02%に減少。広東省全体では、約320,000の発熱外来のスクリーニングの0.14%がCOVID-19陽性。18歳以下への攻撃率は低い。武漢では、サンプル検査の中で、2019年の11月、12月、2020年1月の最初の2週間に陽性の子供は皆無。注目すべきは、子供から大人に感染が起こったケースはない。

 COVID-19の症状は非特異的であり、病気の症状は無症候性(無症候性)から重度の肺炎と死亡にまで及ぶ。55,924症例に基づく典型的な徴候と症状には、発熱(87.9%)、乾いた咳(67.7%)、疲労(38.1%)、痰が出る(33.4%)、息切れ(18.6%)、のどの痛み(13.9%)、頭痛(13.6%)、筋肉痛または関節痛(14.8%)、悪寒(11.4%)、悪心または嘔吐(5.0%)、鼻づまり(4.8%)、下痢(3.7% )、喀血(0.9%)、結膜充血(0.8%)。

 COVID-19に感染後平均5-6日で、軽度の呼吸器症状や発熱などの徴候や症状を発症(平均潜伏期間5-6日、症状1日〜14日)。感染したほとんどの人は、軽度の病気で回復。検査室で確認された患者の約80%は、非肺炎および肺炎の症例を含む軽度から中等度の疾患をもち、13.8%は重度の疾患、6.1%が重大。無症候の感染が報告されているが、比較的まれと思われる。重度の疾患および死亡のリスクが最も高い個人には、60歳以上の人と、高血圧、糖尿病、心血管疾患、慢性呼吸器疾患、および癌などの基礎疾患のある人が含まれる。小児の疾患はまれで、軽度。19歳未満の人々のごく一部が、重度の疾患(2.5%)または重篤な疾患(0.2%)を発症。

 2月20日現在、55,924の検査室確認患者のうち2,114人が死亡。特定の疾病に罹患した母集団のうち死亡する割合(CFR)は3.8%。中国では、全体的なCFRは初期段階で高く(1月1日から10日までに症状が発現した症例では17.3%)、2月1日以降0.7%に低下した。死亡率は年齢とともに増加し、80歳以上の人が高い死亡率(CFR 21.9%)。CFRは、女性と比較して男性で高くなっている(4.7%対2.8%)。併存疾患のある患者の割合が高く、心血管疾患のある患者では13.2%、糖尿病の9.2%、高血圧の8.4%、慢性呼吸器疾患の8.0%、がん患者の7.6%。軽度の症例の発症から臨床回復までの時間の中央値は約2週間であり、重度または重篤な疾患の患者では3〜6週間。

 当初、体温監視、マスキング、および手洗いを促進。特定の封じ込め対策は、州、郡、さらにはコミュニティの状況、設定の能力、およびそこでの伝播に合わせて調整された。

*参考:韓国の現状 (3月1日現在)

 感染者の数は前日より586人増え3,736人。死亡者は20人。地域別では、集団感染を引き起こしている大邱市=2,705人と慶尚北道=555人が最も多い。女性が62.3%、男性37.7%。 世代別では10歳以下=27人、10代=137人、20代=1054人、30代=426人、40代=521人、50代=687人、60代=453人、70代=158人、80歳以上63人。20代までが全体の約3分の1近くを占めており、60代から80歳以上の高齢者よりも多い。全快者は合計30人。死亡者は20人に上るが、男女別では男性12人、女性8人。世代別では30代1人、40代1人、50代5人、60代6人、70代3人、80代以上4人。 地域別では集団感染が発生している大邱市と慶尚北道に集中し、全員が疾患をもっていた。韓国のPCR検査件は95,185人(感染者3,526人を除く)に対して行われ、陰性結果は61,825人。33,360人が現在検査中。

*これだけでも中国と韓国の結果は相当に異なる。さらに他国の数値も対照し、日本のデータと比べてみたいものである。

 

3月3日

<次の文書は原文をそのまま掲載したもの>

市民の皆様へ

新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査に関する報道の事実誤認について

2020年3月1日

国立感染症研究所
所長 脇田 隆字

 今般、北海道における新型コロナウイルス感染症に関する一部の報道において、国立感染症研究所(以下、本所)職員の発言趣旨に関して事実と異なる報道がございましたので、ここでご説明いたします。

1.前提:積極的疫学調査について

 感染症が流行した際には、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」第15条に基づき、「積極的疫学調査」が実施されます。

「積極的疫学調査とは、感染症などの色々な病気について、発生した集団感染の全体像や病気の特徴などを調べることで、今後の感染拡大防止対策に用いることを目的として行われる調査」です(厚生労働省ホームページより)。

 積極的疫学調査は、都道府県・政令市・特別区の業務であるとともに、感染症の発生予防・まん延防止のために緊急の必要がある場合には、国が都道府県等の行う疫学調査について必要な指示を行うとともに、国自らも積極的疫学調査を行うことと定められています。また、地方公共団体等の調査体制を強化し、連携するため、都道府県等は、調査のため他の都道府県等に対して職員の派遣等の協力を求めることができることとなっています。

 今般の新型コロナウイルス感染症においても、感染の急速な拡大を防止するために、本所をはじめ、公的な機関の職員らが連携して、全国各地で実施されています。

2.国立感染症研究所の職員による積極的疫学調査について

 今般の新型コロナウイルス感染症への対応のため、新型コロナウイルス感染症厚生労働省対策本部クラスタ―対策班の指示により、国立感染症研究所等の職員7名が北海道に派遣され、積極的疫学調査に従事しています。今回の積極的疫学調査では、感染の拡がりを、集団感染単位(クラスター)ごとに封じ込め、地域や国全体の感染の抑制、収束に至らせることを目的として活動しています。具体的な活動は、以下の通りです。

PCR検査によって感染が確定した人の接触者に何らかの症状が出た場合に、PCR検査によって感染の有無を確定すること

感染があることが確定すれば、次の感染伝播を防ぐために、その人の接触者に対して、行動の制限を依頼すること

3.一部報道による事実誤認について

 一部の報道では、北海道に派遣された職員がPCR検査について「入院を要する肺炎患者に限定すべき」と発言し、「検査をさせないようにしている」との疑念が指摘されています。

 しかし、積極的疫学調査では、医療機関において感染の疑いがある患者さんへのPCR検査の実施の必要性について言及することは一切ありません。

 本所において、職員に対して聞き取り調査を行ったところ、

感染者の範囲を調査により特定し、対応を行っていく積極的疫学調査のあり方についてアドバイスを行った

検査に関する議論の中で、「軽症の方(あるいは無症状)を対象とした検査については、積極的疫学調査の観点からは、「PCR検査確定者の接触者であれば、軽症でも何らかの症状があれば(場合によっては無症状の方であっても)、PCR検査を行うことは必要である」と述べた

「一方、接触歴が無ければ、PCR検査の優先順位は下がる」と述べた

とのことでした。

 職員が述べた考え方は、感染伝播の状況を把握することを目的とした、積極的疫学調査における一般的な考え方です。しかし、この考え方は、体調を崩して医療機関を受診する患者さんに対するPCR検査についての考え方ではありません。現在の政府の方針、すなわち、「医師が総合的に新型コロナウイルス感染症の疑いありとした患者に関しては検査が可能である」という考え方を否定する趣旨はなく、また、医療機関を受診する患者さんへのPCR検査の実施可否について、積極的疫学調査を担っている本所の職員には、一切、権限はございません。

 よって、本所職員の発言の趣旨が誤った文脈に理解され、事実誤認が広がった可能性があるものと考えます。

4.積極的疫学調査にご協力いただいている皆様へ

 感染者や接触者の皆様におかれましては、大変な状況のなかで、積極的疫学調査の趣旨をご理解いただき、ご協力くださっていることに心から感謝申し上げます。皆様の多大なご協力によって、新型コロナウイルス感染症への理解が進んできております。どうぞ今後ともご協力をよろしくお願い申し上げます。また、気になる症状がございましたら、管轄の保健所や帰国者・接触者相談センターにご相談ください。

5.報道に携わる皆様へのお願い

 最近の各種報道では、上記の件以外でも、本所が「検査件数を抑えることで感染者数を少なく見せかけようとしている」、「実態を見えなくするために、検査拡大を拒んでいる」といった趣旨の、事実と異なる内容の記事が散見されます。

 こうした報道は、緊急事態において、昼夜を問わず粉骨砕身で対応にあたっている本所の職員や関係者を不当に取り扱うのみならず、本所の役割について国民に誤解を与え、迅速な対応が求められる新型コロナウイルス感染症対策への悪影響を及ぼしています。

 報道に携わる皆様におかれましては、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」とその運用、ならびに本所の役割をよくご理解いただき、新型コロナウイルス感染症の急速な感染拡大の防止にご協力くださるよう、お願いいたします。

以上

 

「積極的疫学調査」は、英語ならActive epidemiological investigation。この一部報道への抗議文書について次の二つのことを指摘できる。

(1)この文書は、新型コロナウイルスについての積極的疫学調査という活動と医療活動は別物であり、調査に従事する者が使うPCR検査は医療のためのPCR検査とは違う目的で使われる、という当たり前のことを理由に一部報道の誤認を正そうとしたものである。

(2)「PCR検査によって感染が確定した人の接触者に何らかの症状が出た場合に、PCR検査によって感染の有無を確定すること」が今回の調査活動の肝心な点なのだが、聞き取りによる「「軽症の方(あるいは無症状)を対象とした検査については、積極的疫学調査の観点からは、「PCR検査確定者の接触者であれば、軽症でも何らかの症状があれば(場合によっては無症状の方であっても)、PCR検査を行うことは必要である」と述べた」、「一方、接触歴が無ければ、PCR検査の優先順位は下がる」と述べた」は、それぞれこの調査活動と整合的ではなく、この調査活動とは無関係である。

(1)は当たり前のことだが、ここに現在の医療活動としてのPCR検査を実際に行い、それらを管理しているのはどこか(国立感染症研究所そのもの)を考えると当たり前のことがそうではなくなってくる。市民の私たちは調査活動と医療活動の両方を行っているのが国立感染症研究所だと知っているが、どの職員がどちらの活動をしているかは知らない。あるいは、両方の活動をしている職員も多い筈である。二足の草鞋を履く研究所があって一向に構わないのだが、二枚舌の研究所では困る。

(2)は無症状の人でも検査できることになり、まず不整合。接触歴がないのだから、調査対象ではなく、検査順位の上下は無関係。これは揚げ足取りのようだが、調査活動におけるPCR検査の適用範囲について無症状の人を調査対象にするか否かは重要なことである。文面から北海道での調査は無症状の人は対象にならないようである。

 研究所が調査と医療の両面でPCR検査を行っている現状から、二つを分け、医療のためのPCR検査は保険診療の一つとしてインフルエンザの場合のように民間の検査機関に任すことが適切だと思われる。このように私が言っても何の効果もないのだが、休校となった中高生はこの感染研の文書を小論文の題材にしてみるのもよいのではないだろうか。霞が関文書を分析し、解釈するのも頭の体操になる筈である。

 

3月4日

COVID-19 についてのニュースを聞きながら

 3月4日現在、香港、マカオを除く中国では80,151人が感染、2,943人が死亡。中国本土では、3日午前2時からの24時間で新たに125人が感染、31人が死亡。中国以外では計12,571人の感染者が確認され、うち212人が死亡。3日午前2時以降の中国国外での新規感染者数は2,441人。中国以外で感染者の多い国は、上位から順に韓国(感染5,186人、死亡28人、新規感染851人)、イタリア(感染2,502人、死亡79人、新規感染466人)、イラン(感染2,336人、死亡77人、新規感染835人)、日本(感染268人、死亡12人、新規感染14人、「ダイアモンド・プリンセス」でも700人余り。国内で「クラスター」と呼ばれる集団感染が判明しているだけでも9件発生、ここからつながりのある感染者数が80人以上になる。これは都道府県の感染者260人の約30%を占め、スポーツジムや展示会などを中心に多数の患者が出て、それが医療関係者や家族にうつるパターンが目立つ。残念ながら、日本では疫学調査のデータが公開されていないので、「…と思われる、…と推定される、…らしい」といった表現しかなく、肝心の事実が述べられていない。それゆえ、「要請」だけなされ、その根拠や理由は示すことができない。そして、上記のような内容とその説明が一日中手を変え品を変え、延々と放送されている。

 そこで、肝心の情報を手に入れるにはどうすればいいのか老人なりに考えてみた。自分がいた大学の医学部を見直すと、今話題になっている疫学関連の事柄を扱うのは感染症学、衛生学公衆衛生学、医療政策・管理学で、いずれも臨床系ではなく、基礎系である。公衆衛生学は大学院として2015年健康マネジメント研究科・公衆衛生プログラムができている。医学研究は「基礎研究」、「臨床研究」、そして「疫学研究」に大別される。疫学研究は、大規模な人口・集団を対象とし、病気の発生率や、検診やワクチンの予防効果などを統計学的に調査する研究。疫学は、人間集団を対象に健康に関わる要因を明らかにする。例えば、初経年齢が早い人、出産経験のない人、初産年齢の遅い人、閉経年齢の遅い人などは乳がんになりやすいと言われているが、これらは疫学研究によって明らかになったもの。

 したがって、ほしい情報は疫学、感染症学の情報となるのだが、疫学関係の学会は実に多い。当面役立ちそうなのものとして日本疫学会と日本感染症学会にターゲットを絞り、一日に一回はホームページを見て、コロナ関連の情報を確認してみよう(いずれの学会もその名称で検索すればすぐわかる)。例えば、日本疫学会のホームページから特設サイトCOVID-19 GIS Hub(この名称で検索すれば、直接つながる)へ移ると、WHOの世界統計等を即座に知ることができる(日本に関わる部分は日本語でも表示されている)。また、日本感染症学会のホームページには症例報告が掲載されていて、例えば、喘息の薬に関する報告記事があり、どのような効果があったのかを正確に読み取ることができる。素人の私にはこの二つでも十分過ぎるほどで、政治家の意見や妙な解説よりずっと信頼できる。

 私たちの個々の行動は私たちの賢い常識を尊重することで十分、特別のマニュアルなど必要ないのではないか。