情景の断片

 『万葉集』以来の花鳥風月の世界と生物学的な世界の微妙な違いは生物種の命名に影を落とし、表現の豊かさを生み出してきました。そして、その遺産を活用して、私たちは自然を詠み、知り、理解してきました。その断片の一つが今日の話題です。

 夕方の化粧は想像力を掻き立てるが、ユウゲショウ(夕化粧)は道端や空き地、川原に多く、普通は高さ20cm程だが、時には50cmにも成長する。茎には柔毛があり、葉はやや広い披針形で互生する。原産地は北アメリカ南部から南アメリカで、明治時代に観賞用として渡来。現在は野生化し、ほぼどこでも見ることができる。和名は夕方から咲くことに由来するが、今は昼間から咲いている。5月から9月にかけて茎上部の葉の脇から薄紅色で直径1.5cm位の花をつける。花弁は4枚で紅色の脈があり、中心部は黄緑色である。やや紅を帯びた白色の葯を付ける雄しべが8本あり、雌しべの先端は紅色で4裂する。
 私の子供の頃の記憶にはまるで登場しないのだが、今はあちこちに咲いていて、とてもポピュラーな雑草である。外来種の侵入情報によれば関東から西日本に分布するとのことで、新潟は入っていない。だから、私の記憶にないのは当然かも知れないのだが、別の説明では全国に分布するともあり、私の記憶の有無と事実の関係を解明したいと思ってしまう。妙高にはユウゲショウが実在するや否や?実在すれば、いつ頃からか?
 ヒルザキツキミソウ(昼咲き月見草)は、晩春から夏にかけて、待宵草を桃色にしたような花を咲かせるアカバナ科マツイグサ属の耐寒性多年草。北米からの帰化植物で、丈夫で、野生化している。葉は披針形で、葉縁に波状の鋸歯があり、互生してつく。マツヨイグサ(待宵草)と同属で、夕方から夜に咲くことが多いツキミソウの仲間なのに昼間開花するので、この名がある。
 太宰治の『富嶽百景』で「富士には、月見草がよく似合ふ。」と書かれた「月見草」は、実際はマツヨイグサとされる。竹久夢二作詞の「宵待草」はマツヨイグサ、あるいはオオマツヨイグサとされる。では、富士に対峙するには、ツキミソウヒルザキツキミソウマツヨイグサのいずれが適しているのか。これら三つにユウゲショウを加えると、正に識別テストの格好の材料になりそうで、富士に似合うのはどれかなど誰もが満足する答えはなさそうである。とはいえ、私には宵待草が富士に似合うようには思えない。
 残念ながら湾岸地域の月見草、あるいは宵待草のほとんどはメマツヨイグサである。日本語的な宵待草、漢語的な待宵草だが、マツヨイグサ、メマツヨイグサ、オオマツヨイグサコマツヨイグサと四種類もマツヨイグサがあり、画像のように花びらの先がへこんでいるのはメマツヨイグサ(雌待宵草)。オオマツヨイグサは花の直径が6~8㎝と大きい。マツヨイグサは枯れた花がオレンジ色になる。コマツヨイグサは葉に切れ込みがあり、茎は地面をはうように広がり、やはり枯れた花はオレンジ色になる。

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ユウゲショウ

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ツキミソウ

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マツヨイグサ

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マツヨイグサ