スイレン(睡蓮)、ヒツジグサ(未草)についての夢想

 ヒツジグサは日本などが原産のスイレンスイレン属の植物。妙高高原ビジターセンターに3株残っているという。寒さに強く初夏から秋に、低山~亜高山の湿原に生える世界最小のスイレン(睡蓮)である。花径は3~5 cm程度。単にスイレン(睡蓮)と言えば、スイレン属の水生多年草の総称で、全世界に自生種が50種ほどあり、日本のヒツジグサはその一つ。園芸品種は多数あり、いもり池に繁茂しているのもその園芸種の一つが野生化したものである。
 現在目にする多くは明治以降観賞用として入ってきた外来種。日本古来のヒツジグサは、白い花のみ。尾瀬に咲くヒツジグサは直径が500円玉くらいとか。「未草」は、「未の刻(午後2時ごろ)から咲き出す」ことが由来のようだが、実際は朝から夕方まで咲いている。睡蓮も和名だが、ヒツジグサは夜に花を閉じて水中に隠れ、昼にまた水面に浮かぶことから睡る(ねむる)蓮、睡蓮の漢名があてられていることが『大和本草』に書かれている。『大和本草』の刊行された江戸時代、まだ日本にはヒツジグサしか存在しないので、睡蓮と言えばヒツジグサを指したようである。
 こうして、スイレンは広義にはスイレンスイレン属の植物の総称、狭義にはヒツジグサの別名だが、外来種や園芸品種のスイレンを指してヒツジグサとは言わないことになる。

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モネ「白と黄色の睡蓮」(1915-17)ヴィンタートゥ―ル美術館(スイス)

 スイレンは大きく分けて、温帯性スイレンと熱帯性スイレンの2種類がある。温帯性スイレンは寒さに強く、丈夫で育てやすい。水面が凍る程度でも、外に出したまま越冬が可能。日本で生育されている殆どがこの温帯性スイレン。4月頃には葉が成長し、開花時期は4月~10月と長く、3日間ほど花を咲かせては閉じるを繰り返す。熱帯性スイレンは寒さに弱く、水温は25度以上が必要。日本では外での越冬は不可能。主に熱帯アフリカや南米、熱帯アジアで栽培されている。開花時期は7月~10月と温帯性スイレンより短い。花の色彩が鮮やか。
 ところで、スイレンならモネを連想する人が多いだろう。日本にもモネを体感できる庭がある。それが高知県北川村の「モネの庭」マルモッタンである。7月中旬には温帯性、熱帯性の品種が咲き揃う。北川村「モネの庭」マルモッタンは、ジヴェルニーの「モネの庭」をできるだけ忠実に再現し、なおかつ日本の気候風土に合うような植物選びをした庭である。正に、日本で出会う「モネの睡蓮」の世界。ジヴェルニーの庭と同様、モネが憧れた日本を象徴する緑色の太鼓橋が「水の庭」にある。園内には「水の庭」、「花の庭」、「光の庭」とテーマの異なる三つの庭がある。ここに咲くスイレンは、ジヴェルニーの庭に咲く中から株分けしてもらった温帯性の8品種。さらに、フランスでは気候的に栽培が難しい熱帯性の品種5種も植えられている。
 いもり池のスイレンは北川村のスイレンとは随分違ったように評価されていて、今のところ「逆さ妙高」を壊す悪者でしかないと思われている。いもり池はモネの池と違って異臭が漂う池になっている。となれば、発想を逆転させて、今あるスイレンだけでなくもっと種類を増やし、ヒツジグサやハスとの共存を目指して、池を整備する手もあるだろう。