オオルリのオスはなぜ青い、シラネアオイはなぜ青い(2)

 ほとんどの動物の青色は色素ではなく、散乱や構造色によるものです。色素と散乱や構造色とでは、色の見えるメカニズムが異なります。色素は特定の波長を吸収しないことで、特定の色が見えています。青色の色素ならば、光の三原色の残りの二つ、赤色と緑色の色を吸収し、青色は吸収しないことによって青色に見えています。レイリー散乱は光の波長よりも小さな粒子によって起こる散乱です。特定の光の波長を散乱することによって、特定の色が見えます。空が青く見えたり、夕焼けが紅く見えるのもレイリー散乱によります。構造色は特定の色のみを反射することによって特定の色が見えます。構造色をもつ物質は、数百ナノメートル程度の規則正しい構造をもっています。オパールや、真珠などが色づいて見えるのも構造色によります。鳥類は極めて鮮やかな色彩をもっています。でも、色素由来の青い鳥はほとんどいません。多くは、レイリー散乱によります。羽に含まれる気泡やケラチンが青色を散乱することによって青色に見えるのです。オオルリの羽は構造色。オオルリの羽は見る角度によって色が変わります。鳥の羽から色素が抽出できないことから、鳥の色は羽に含まれる何らかの構造に由来するという仮説が提唱されます。100年ちょっと前のことで、色の由来として羽内部に含まれる粒子によるミー散乱、レイリー散乱チンダル現象が色の原因だという仮説です。
 1998年のNatureで、反射強度の空間分布をフーリエ変換したところ、うっすらとしたリングが現れたと報告されます。これは、粒子が完全に結晶的な周期構造をとっているわけではないが、ある粒子に注目すると、その周囲の粒子はおよそ似たような位置に存在していることを示しています。それが鳥の羽の色の由来で、次のようにまとめられます。短距離秩序構造での散乱は、光源と構造体がつくる角には依存しない。単一方向からの光だと、見る方向によって玉虫色に変化します。自然光の場合、様々な方向からの光の散乱が重なり、色合いは見る方向で変化しません。これがオオルリのオスが青い理由となるのです。
 シラネアオイ(白根葵)は1科1属1種の日本特産種。一般的に淡い青紫色の花を咲かせますが、濃い紫色から白色まであり、花色は豊かです。茎は直立し、柄のある2枚の葉と柄のない1枚の苞葉がつきます。花は大きく、4枚の花弁のように見えるのはガク片で、花弁はありません。では、シラネアオイの青はどのようなものなのでしょうか。赤、紫、青の色素の多くはアントシアニンで、青色はデルフィニジン系によるものがほとんどです。アントシアニンはアントシアニジンに糖がついて水溶性になったものです。発色のもとはアントシアニジンで、基本構造上の水酸基の数によってペラルゴニジン、シアニジン、デルフィニジンの3系統があります。ペラルゴニジンは橙色系、シアニジンは赤色系、デルフィニジンは青色系の発色をします。ところが私たちに身近のバラやキクの仲間にはデルフィニジンを合成する酵素遺伝子がないため青色系統の花が咲かないのです。でも、周囲を見渡せば、キキョウ、リンドウ、ツユクサアジサイワスレナグサなど、青色の花を咲かせる植物はあります。実際に青の花色を示す物質はデルフィニジン本体だけではなく、これに糖、有機酸、アルミニウム、マグネシウム、鉄などの金属が複雑に結合して深みのある青色を出しています。また、青色はデルフィニジン系だけでなく、シアニジン系の分子にフラボン、鉄、マグネシウムなどの金属が組合わさって青色色素となっているヤグルマギクのような例もあります。
 高山帯に生育する植物には青色がよく見られます。色素量が多く濃い色の花が多いのは確かです。アントシアンやフラボンはいわゆるポリフェノール活性酸素を消去する働きがあります。紫外線はアントシアン、フラボンの生合成を促進します。高山帯は紫外線が強く活性酸素生成が多くなるのでその害を消去するために色素量を多く合成すると解釈されています。どんな花色素を合成するかは植物種の固有の働きですが、環境の変化によって色素量などを調節しているのです。農研機構の花き研究所青色に詳しく説明されています(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/flower/kiso/color_mechanism/contents/blue.html)。
 オオルリシラネアオイもそれぞれについて青色の発言の仕組みが明確に特定されているかどうか、残念ながら素人の私にはわかりません。それでも、これまでの説明からオオルリのオスの青色とシラネアオイの青色が異なる仕組みによって私たちに青く見えていることは十分にわかります。
 白のオオルリは流石に報告されていませんが、白い花のシラネアオイは珍しくありません。ですから、名前まであって、シロバナシラネアオイシラネアオイの白花種です。シラネアオイの別名がハルフヨウ、ヤマフヨウであり、白いフヨウがよく見られることを考えれば、シロバナシラネアオイの存在はスッキリ頷けます。オオルリの瑠璃色を薄くした水色のオオルリの写真を見たことがあります。それがチョウセンオオルリであり、オオルリの亜種です。濃い青色ではなく、薄い水色の鳥で、さらに水色が薄くなる可能性は大いにあります。このようなことは、シラネアオイオオルリも色が固定されているのではなく、変化してきたものであり、今後も変化の可能性が高いことを物語っています。その変化していく色がどのような仕組み、カラクリによって私たちが知覚する色になるかがわかれば、オオルリのオスの青とシラネアオイの青が同じか違うか、違うなら何が違うかの説明になるのです。
 これまでのことならわざわざ話す意味はなく、中学校の生物の教科書で十分な話です。私が少々こだわりたいのは、「色の素があるから青く見える」のと「光をうまく使って青の色を生み出す」のとは、明らかに仕組みが違う、だから、二つの色は違うのだという科学的な主張です。そのように言われて納得しては駄目だというのが私の主張。
 色素があることと構造的に色をつくるということは違っていても、私たちの眼はそんな識別はできず、端的に青色を見るのです。私たちは青色を知覚するのであって、青の色素や構造を知覚するのではありません。私たちの知覚にとって青を生み出すカラクリの違いなど意味をもっていないのです。したがって、オオルリの青もシラネアオイの青も見たときに同じ色に見えるならば、それは同じ青色だというのが正直な答えになります。これが感覚質(qualia)の青のことです。眼がなければ、色がないのと同じだと書いたことを思い出すなら、同じ色に見えるなら、それは同じ色であるということになります。