シャクナゲ

 昭和世代なら「シャクナゲ」と言われると、シャクナゲ自体より「しゃくなげ色に たそがれる はるかな尾瀬 遠い空」という一節を思い出すのではないか。「夏の思い出」に登場するシャクナゲ(石楠花)は高山種の花木。だが、それが最近は公園でもよく見かけるようになった。「しゃくなげ色」とは淡い紫みのピンク色を指すのだろうが、井上靖には大いに気になる花だった。井上の短編に「比良のシャクナゲ」がある。若い頃の彼は、小説の原型になるものを「詩」の形にして書き留めていた。「比良のシャクナゲ」が散文詩として書かれたのは1946年で、小説として発表されたのは1950年の『文学界』だった。
 ツツジ科のシャクナゲは本来渓谷に群落として自生していて、新緑の季節にツツジに似た大形の花を枝先に咲かせる。シャクナゲは葉にケイレン毒を含む有毒植物で、摂取すると吐き気や下痢、呼吸困難を引き起こすことがある。シャクナゲには交雑種が多く、種類は多岐にわたる。園芸種も様々あり、最近ではセイヨウシャクナゲがよく出回っている。画像の二枚は「太陽」という園芸種で、赤紫の大きな花が咲き、樹高も大きくなる。
 身近にあるシャクナゲは深山の高貴さを失ってしまったのかも知れないが、それでも私たちを惹きつけるに十分な魅力をもち続けていて、気になる花である。

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