花桃二種

 桃は実だけでなく、花も味わうのが強欲な人の常で、その代表となれば、紅白の八重咲で人目を奪う「源平枝垂れ」。モモの花を鑑賞する園芸品種。 紅白の花と枝垂れ性(枝が垂れ下がること)のあることから、この名前がつけられた。太い幹や枝に突然変異が生じると枝ごとあるいは幹ごとに赤と白に咲き分けるが、枝の先端や花の中で突然変異が生じると花ごとに赤と白になったり、赤と白の斑入りの花になり、一本の木に白と紅の二色を咲かせる。源平枝垂れは、江戸時代からあるモモの品種で、赤と白や斑入りが源平の合戦のように競い合って咲く。
 次の代表はテルテモモ(照手桃)。中国原産の花桃を品種改良した立性の品種。テルテモモは横へは広がらず、 コンパクトにまた箒状に縦にまとまった樹形をしている。その樹形からホウキモモ(箒桃)とも呼ばれる。その名前は、神奈川県藤沢市ゆかりの「小栗判官と照手姫」伝説のテルテ(照手)からつけられた。花の色は白、赤、そして桃色で、八重咲である。
 源平枝垂れも照手桃も人が生み出した品種で、いずれも人目を奪う程の見事な花をつける。人の手が加えられたためか、一流の風景画や美人画を鑑賞する際の気持ちに近いものを感じてしまう。野薔薇の美しさとは違い、園芸種のバラたちに近い。いずれの品種も人の感性や欲求が色濃く反映される人為選択の結果で、抗しがたい美しさを強調している姿に自然より文化をより感じてしまうのは私だけではあるまい。さて、これから咲き誇るソメイヨシノに人は自然と文化のいずれをより感じるのだろうか。

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源平枝垂れ

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源平枝垂れ

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照手桃

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照手桃

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照手桃

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照手桃