オオルリのオスはなぜ青い

 オオルリコルリルリビタキと共に「青い鳥」御三家。また、ウグイスとコマドリと共に日本三鳴鳥の一つ。色も鳴き声も優れた鳥で、そのため妙高市の市鳥になっている。そのオオルリの青はどのような青なのだろうか。

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オオルリ(オス)

 およそ6億年前まで、地球上の生き物には色は存在しなかった。色を見る目を持つ生き物が存在しなかったからである。当時海を漂っていた生き物は、太陽の光を感知できたが、色を感じるための器官は何も持っていなかった。その後、海の捕食生物が視覚を発達させていった。その眼で、獲物を見つけ、捕食したのである。被食者もこのままではいられない。進化して適応しなければならなかった。さらに、色はカモフラージュだけでなく、自分を健康的、魅力的に見せてパートナーを得るのにも使われることになる。数百万種が何回か大量絶滅を繰り返した後、ヒレや毛皮、羽毛を持つ生物は数百色に及ぶ多種多様な色を持つようになった。
 動植物が持つ色は、特定の波長の光を強く吸収する色素に起因している。多くの色素は着色以外の方法にも有用で、例えばメラニンの微粒子は鳥の羽毛の強度を保ったり人間の皮膚を太陽光から守ったりする。葉緑素光合成のために太陽光を吸収する役割を持つ物質だが、この色素によって植物は緑色に見える。多くの動物は植物から色素を得て消化したり変化させたりしながら、体の表面に独自の色素を持つことができるようになった。
 例えば、ピンク色のフラミンゴ。赤ちゃんフラミンゴの色は、まだ白っぽい灰色である。餌となるエビやカニ、藻類からカンタキサンチンという色素を得ているため、大人だけがピンク色になる。ヨーロッパコマドリやフィンチはイチゴからこの種の色素を得て、鯉も藻を食べることでオレンジ色になる。
 だが、その色が青色となると話は難しくなってくる。フラミンゴにブルーベリーを与えても青くすることはできない。動物には色に限界があることがわかっている。茶色や灰色はよく鳥類に現れ、赤や黄色は食べ物に含まれる色素から作ることができる。しかし他の色、特に青は食べ物に含まれている色素から作ることが驚くほど難しい。大多数の動物は色素から青色を作ることができない。地球上の陸棲の脊椎動物で、青い色素を持つものは一種たりとも知られていない。それどころか、例えば孔雀の羽や青い目など、自然界でもっとも青いものにさえ青い色素は含まれていない。
 では、なぜ青く見えるのだろうか?彼らは青く見せるために新たなタイプの光学的技術を発達させてきた。それは構造を利用したトリックである。大きな翅をもち、翅の表側に金属光沢をもつのがモルフォチョウの特徴。この光沢はほとんどの種類で青色。翅の表面にある櫛形の鱗粉で光の干渉が起き、光沢のある青みが現れる。鮮やかな翅の色を持つのは雄で、ほとんどの雌は雄よりも地味な茶色。その鮮やかな青い色「メタリックブルー」は羽根の表面の微細構造によるが、今ではそれに似た微細構造を最先端のナノテクを駆使してシリコン基板の上に作ることができる。
 多くの緑色のヘビとカエルは実際には緑色なのでなく、黄色の色素と青色の光学的構造を混ぜ合わせて緑色に見せている。緑色のヘビが死んだときには、黄色の色素が次第に薄れていくため、体は青くなるという。光を散乱して作られている青色のみが残ることとなる。別の例は、1998年ドイツで薄い茶色と灰色の土壌の層から見つかった5000万年前の甲虫の死骸だろう。数千万年も地中にいながらも、この甲虫は輝くメタリックブルーだった。
 では、植物はどうだろうか。植物にも構造色が見つかった。Pollia condensata(ツユクサ科の植物名)はアフリカ全土に見られるが、この実は世界でもっとも光り輝くことで有名。最近、ケンブリッジ大学の研究者たちによって、セルロース繊維の構造体によってメタリックブルーが生み出されていることがわかった。この青は構造色で、動物の世界では幅広く知られていたが、植物でも見つかったことで話題になった。生物の構造色は5億年前に地球上に現われ、その後動物界でも植物界でも、素材こそ違え、同じような多層フォトニック構造で発色する仕組みを共通して進化させてきた「自然の妙」が指摘されている。P. condensataでの発色の仕組みは、果実の外果皮の細胞壁セルロース繊維が固く巻いたものからなる層がいくつも形成されていて、それが光を反射する。セルロース繊維の間隔が細胞ごとに微妙に違っているために、異なる波長の光を反射し、見る角度によってメタリックブルーの色調が微妙に変化するとのこと。
 自然は色についていたって不公平である。空と海を除くと、自然には赤、黄、白が溢れているが、青は極端に少ない。青い色素をもたないバラは青くないが、オオルリのオスは見事な青色の羽をもっている。クジャクもキジもオスは青の羽をもつが、メスは茶色で目立たない。自然界において「色素」由来の青は非常に僅かで、青を表現する語彙も乏しい。フェルメールが使ったラピスラズリは昔から青い顔料として利用されてきたが、非常に高価だった。1700年代に、ドイツでプルシアンブルーが偶然に発見される。北斎の富岳三十六景に使われている鮮やかな青は、そのプルシアンブルー。日本では伊藤若冲が最初に使ったとされている。
 青色の動物の多くは色素ではなく、散乱や構造色による。色素と散乱や構造色とでは、色の見えるメカニズムが異なる。色素は特定の波長を吸収しないことで、特定の色が見えている。青色の色素ならば、光の三原色における残りの二つ、つまり赤色と緑色の色を吸収し、青色は吸収しない、そのことによって青色に見えている。レイリー散乱とは、光の波長よりも小さな粒子によって起こる散乱である。粒子の大きさなどの条件により、特定の光の波長を散乱することで、特定の色が見える。空が青く見えたり、夕焼けが紅く見えるのもレイリー散乱による。瞳が青く見えるのも、レイリー散乱。構造色は、特定の色のみを反射することで特定の色が見える。構造色をもつ物質は、数百ナノメートル程度の規則正しい構造をもっている。オパールや、真珠などが色づいて見えるのも構造色による。脊椎動物では、鳥類が極めて鮮やかな色彩をもっている。だが、色素由来の青い鳥はほとんどいない。多くは、レイリー散乱による。羽に含まれる気泡やケラチンが青色を散乱することで、青色に見える。クジャクの羽は構造色。クジャクの羽は見る角度によって色が変わる。
 絵の具などのような無機物による色は顔料、水や油に溶ける色素は染料。太陽の光が、赤い花に当たると、赤以外の光は花の中にある色素に吸収され、残った赤い色が反射され赤く見える。吸収された光はやがて熱に変わる。したがって、色素の色は光が熱に変わっていく過程で、いらなくなった光が反射されて見える色である。
 これに対して構造色は光の吸収がない。例えば、眼鏡の反射防止膜に使われるような薄膜の場合、太陽の光は薄膜により特定の色の光だけが反射され、残りの光はすべて透過するので、光のエネルギーは失われない。何か構造があると色づく色が構造色である。
 鳥の羽から色素が抽出できないことから、鳥の色は羽に含まれる何らかの構造に由来するという仮説が提唱される。100年ちょっと前、色の由来として羽内部に含まれる粒子によるミー散乱、レイリー散乱チンダル現象が色の原因だという仮説が出る。
 1998年,Prum,Dyck他がNature論文で、反射強度の空間分布をフーリエ変換したところ、うっすらとしたリングが現れたと報告。これは、粒子が完全に結晶的な周期構造をとっているわけではないが、ある粒子に注目すると、その周囲の粒子はおよそ似たような位置に存在していることを示している。鳥の羽ではタンパクであるケラチンによって作られるほぼ大きさの揃った球が、乱雑に詰まっているか、それらがつながった形をとっているかで、これが光を散乱する。それが鳥の羽の色の由来で、次のようにまとめられる。短距離秩序構造での散乱は、光源と構造体がつくる角には依存しない。単一方向からの光だと、見る方向によって玉虫色に変化する。自然光の場合、様々な方向からの光の散乱が重なり、色合いは見る方向で変化しない。これがオオルリのオスが青い理由である。